Craziness side O


「あんたはあのこの何処が好きだったの?」
 問われて、ぼんやりと彼女の何処が好きだったか考えた。
「アタシは、あのこの笑顔が好きだった。綺麗で純粋でひたむきで、それでいて強さを秘めたあの笑顔が」
 そう、自分もあの笑顔が好きだった。でもそれだけじゃない。
「あんたは?」
 再び問われて再び考える。

 彼女の何もかもが好きだった。
 彼女の何もかもを愛していた。

 金の髪も翡翠の瞳も雪白の肌も。笑顔も泣き顔も怒った顔も哀しげな顔さえ。

 愛していた愛していた愛していた。
 だからどうしても彼女が欲しかった。

 そして手に入れた。

「あのこを手に入れて、それで今は満足?」

 満足? どうだろう?
 愛するアンジェリークは今俺の腕の中にいる。その金の髪を撫でながら考える。

 彼女は俺のものになった。俺だけのものに。
 飛んでいってしまわないように羽根はもいだし、何処にも行かないように足も折った。這っていくことも考えられたから腕も取った。
 今はもう俺だけのもの。

「あのこからすべてを奪って、そして手に入れて。満足した?」

 だって仕方ないだろう。
 手に入れるには、壊すしかなかったから。

「ソレは、あんたが愛したあのこ?」

 ソレ?

 オリヴィエは何を言っているのだろう。
 ここにいるのは間違いなくアンジェリークで、彼女は俺のもの。
 この金の髪も翡翠の瞳も雪白の肌も、俺だけのもの。

 もう他の誰も見ない。話しかけない。笑いかけない。
 俺だけのもの。

「オスカー、あんた、狂ってるよ」

 何を今更。
 俺はお嬢ちゃんに出逢ったときから、もう狂わされっぱなしさ。

「狂ってる」

 そうさ。
 俺はアンジェリークに狂ってる。
 笑っても構わないぜ。

 なあ、俺のお嬢ちゃん、アンジェリーク。

 ああ、肌がこんなに冷たい。今日は寒かったかな?
 いいさ。俺が君を暖めてやるから。ずっとこうして抱きしめているから。

 アンジェリーク。アンジェリーク。アンジェリーク。

 俺の、アンジェリーク。
 愛してる。


 END