Go home, sweet sweet my home! 5


 さて、飛空都市&聖地に味方は(アンジェリーク以外?)ひとりもいないのではないかと思われていたオスカーだが、なんと意外にも、味方が存在していた。
 それは誰かというと、オスカーの私邸の使用人達であった。
 飛空都市の私邸には、聖地で仕えていた使用人達がそのまま来ている。そんな彼らは、飛空都市&聖地全体の空気に反して、オスカーとアンジェリークの結婚を賛成し、祝福していた。
 意外な所にいた味方に、オスカーは涙したものである。
 しかし、言っておくと、彼らは自分の主人であるオスカーを慕って、彼の味方になったわけではない。
 彼らだって、自分の主人といえど、あんな女たらしと天使が付き合うことには疑問をいだいていたのである。
 しかし、アンジェリークがオスカーの館に遊びに来るようになり、天使を間近で見られる幸福に、思わず気を許してしまったというか、油断してしまったのだ。彼女がこうしてこの館に遊びにきてくれるなら、まあ、そこまでオスカーとのつきあいを反対することもないかな〜と。
 彼らは甘かった。
 長年オスカーに仕えてきたにもかかわらず、彼らは自分の主人をきちんと把握できていなかった。
 まさか、あの愛らしい天使をはらませるとは思っていなかったのだ。
 確かに、アンジェリークが炎の守護聖の館に泊まっていったことはあった。しかし、そのときも、使用人達はオスカーの魔の手から天使を守ろうと、いろいろ手を回し、万全を期していたはずであった。たとえばさりげなくオスカーが主寝室から出られないように外から鍵をかけたり(アンジェリークは客室で寝ている)、オスカーが悪さなどできないように食後のコーヒーに強力な睡眠薬を仕込んでみたり。
 それなのにいったい何故!? というか、いつのまに!? 何処で!?
 いろいろな疑問は駆けめぐったが、結果的にはどうしようもなく、彼らは、自分の主人の凶行(笑)をとめられなかった自分達のうかつさといたらなさに、涙を流したものであった。
 そしてはじめは、やはりオスカーに怒りを覚えた彼らだが、彼らはふとあることに気付いたのだ。

1 オスカーとアンジェリークが結婚する。
2 当然、アンジェリークはオスカーの館に来る。
3 つまり、自分達がアンジェリークに仕え、そのお世話をすることができる。
4 それはおいしい!!

 今回のアンジェリークの妊娠は、止められなかった自分達にも非はあるのだし、いまさらうだうだ言っても始まらない。
 ……ということで(?)、結婚賛成のムードになっていったのである。
 そんなこんなで、オスカーの館では、愛らしい新しい主を迎え入れるための準備で多忙しになっていた。
 もちろん毎日掃除はしているが、さらに念を込めて隅々まできれいにし、家全体の雰囲気も明るく可愛らしい、天使に似合った感じになるよう、模様替えが大々的に行われた。 花好きなアンジェリークのために新しく温室を作ったり、住みやすいように一部改装なども急ピッチで行われた。
 炎の守護聖の館の使用人達は、毎日忙しく働いた。とっても一生懸命働いた。
 だからあまりに忙しくて、オスカーになどかまっている暇はなかった。



 その日、他守護聖&女性陣の嫌味や皮肉や意地悪に耐えて、へろへろになってオスカーが私邸へ戻ってきた。
 一応結婚は認められたとはいえ、風当たりが弱くなったわけではないのだ。
 宇宙移転の準備で忙しい時期だとはいえ、明らかに嫌がらせと思えるような量や質のしごとが回されてくるし、何かあれば嫌味がとんでくる。
 そんな苦労もアンジェリークの顔を見れば吹き飛んでしまうが、検査だなんだと理由を付けて、ほとんど会わせてもらえない状態だった。たまに会えても、脇をがっちりと、ロザリアやディアが固めていて、キスひとつまともにできない。
 まあこれも、館の改装や準備が終わって、彼女をこの屋敷に迎え入れるまでの辛抱だと思えば、我慢できなくもない……かもしれない。
 オスカーはへろへろの身体を引きずってダイニングまできた。アンジェリークの手料理には負けるが、ともかくコックの作った夕食で腹を満たして休みたかった。
 が、しかし。 
 広いダイニングテーブルの上には、料理ひとつ、ほこりひとつ乗っていない。
 いつもは準備されている夕食がなかった。
 厨房からも何の匂いもしないので、料理がまだできあがっていないというわけではなく、最初から作っていないようだった。
「…………………………」
 思わず無言になる。
 家へ帰れば、夕食が待っている〜と思って帰ってきたというのに、一体これはどういうことなのだろう。
 とりあえず、オスカーの出迎えもせずに改装や内装の指示を出すために慌ただしく動き回っている執事をつかまえて尋いてみる。
「……俺の夕食は?」
「あ、忘れてました。なにしろ、アンジェリーク様をお迎えする準備に追われていましたもので」
「…………………………」
 あっさりと、執事は返した。悪びれた様子はかけらもない。
「おまえ達……普通、主人の飯の用意をを忘れるか?」
「じゃあアンジェリーク様を迎える準備におこたりがあってもいいのですか?」
 オスカーは文句のひとつも言おうとしたが、執事にそう返され、言葉に詰まった。アンジェリークのため、と言われてしまえば、使用人達を怒ることもできない。
 しかもこんなにあわただしいのは、アンジェリークの妊娠のことがあり、結婚までの準備期間が極端に短いせいでもあるのだから。妊娠させた張本人のオスカーには、反論することもできない。
「……じゃあ、何か簡単なものでいいから作ってくれないか?」
 主人は自分だというのに、なんだか腰の低い感じでお願いしてみる。
 なにしろ精神的にも体力的にもくたくたに疲れて、むちゃくちゃ腹がすいているのだ。オスカーは疲れすぎて食欲がなくなる、というタイプではなかった。軍人らしく、疲れたら疲れた分だけ腹の減るタイプだった。
「では、これでもテキトーに召しあがってください」
 ポイ、と何かがオスカーの前に投げ出された。
 それは、カップラーメンであった。
 ちなみに、お湯は用意されていない。自分で沸かせということらしい。

「…………………………………………………………」

 その日、20人が一度に会食会ができるほど広いダイニングで、ひとり寂しくカップラーメンをすするオスカーの姿があった。もう遅い時間で、レストランの類は閉店していて、外に食べにいくこともできなかったのだ。
(これはやっぱり、嫌がらせなんだろうな……)
 と、オスカーはカップラーメンがすすりながら思った。
 しかし、愛する天使が自分のもとへやってくる日を夢見て、彼はけなげに(?)むなしい食卓に耐えるのであった。
 ちなみに、その日から、アンジェリークを無事館に迎え入れるまで、毎日食事はカップラーメンとかトーストだけとか食事抜きとか、ひたすら貧しい食生活が続くことを、彼はまだこのとき知らなかった。



 しかし春はもうすぐだ!
 ……多分。


 To be continued.

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