Dive  into  your  body
 
 
 
新女王が即位した。
未だ 幼さの抜けきらない、少女そのままのような若き女王は
自らが育てた大陸のある新しき宇宙に 愛する世界を受け入れた。 
 
聖地にしては にぎやかな夜。
昼間の厳粛な空気とは うって変わっての饗宴。
新女王の即位を祝う為、この時ばかりは聖殿は一般開放される。
休む間もなく訪れる人々に応対する気取らない女王に 美しい補佐官は僅かに
眉をしかめ 疲れの色を隠す彼女に退席を促したのだった。
 
そうして 夜も深まっていく。
そっとその場を辞した女王を追う一人以外は、もうしばらく にぎやかなその喧噪に
興じるのだった。 
 
遠くに大勢のざわめく声を感じながら 薄明かりの廊下を進む。
長いドレスのすそを気にしながら 私室のドアを開けると女王アンジェリークは
大きなソファにもたれこんだ。
やはり 朝からの緊張のせいか 疲れは否定できない。いや、緊張だけじゃなくて
もう一つ原因があると言えば あるのだが。
「やっぱりちょっと、きつい、かも…。」
あまり認めたくなかったのだが ドレスが 何となくきついのだ。金具はきちんと 
止まるものの 動くと縫い目がどうにかなりそうで不安が残る。
その為 動く時は 充分に注意していた。
「もう…。衣装合わせしたのってつい最近なのに。…どうしよう。太っちゃたのかな。」
アンジェリークは何だか 情けないような気持ちで 背中のファスナーに手を
かけようとした。
 
「おいおい、おかしな事を言うなよ。太ったんじゃなくて、育っただけだろう?」
突然かけられたその声に アンジェリークは飛び上がらんばかりに驚いて 振り返った。
「オスカー様っ、いつの間に…。」
「人が近づけない場所だからって 窓の鍵くらい かけておくべきだぜ。
 例外は何にでもあるんだからな。」
どれほどの厳重な警備体制でも、それを全くの障害としない立場の人間もいる。
例えば この炎の守護聖のように。
「なんでわざわざそんなところから…。」
アンジェリークはオスカーがすぐそこにいることよりも、彼が窓から入ってきたことに、
驚いている。
何故ならオスカーには 数日前スペアキーを渡したばかりだったからだ。
その時はとてもはずかしかったが、それでも頑張って渡すことを決めたのは、
ひとえに職務上の保持が可能なマスターキーを使わせたくなかったのと、
不法侵入のような真似をさせたくなかったからなのだが 
どうして こう この人物は夜這いのような真似が似合うのだろうか。
 
「怪しい奴がいないか警備してきただけさ。俺の陛下に不遜な真似をしようとする輩が
 いないかどうかってね。」
後ろ手に鍵をかけたオスカーは そのままソファに近づく。 
「いたらどうするんですか?」
見とれるほど綺麗な顔に 悪戯な瞳が絡んだ。
「そりゃ ただじゃ 帰さないさ。」
「一番怪しい人がここにいますけど?」
アンジェリークはくすくすと笑って オスカーに腕をのばした。
「警備兵を呼ぶかい?お嬢ちゃん」
「怪しい人は ただで帰してあげません。」
 
オスカーは 腕の中の小さな身体をそのまま抱き上げると 膝の上に抱え込んだ。
何度もキスを繰り返しながら 首までおおう女王のドレスの金具をはずす。
背を動くその動きにアンジェリークは ビクンと震えた。
「きつかったんだろ。すぐ楽にしてやるからな。」
「…あの、私、…………太りました?」
アンジェリークは消え入りそうな声で呟いた。 
「言っただろう。育っただけだって。」
「だって…。」
「心配することはないさ。お嬢ちゃんの苦しいのは ここだけだろ?」
一気にファスナーを降ろして 脱ぎかけのドレスの中から露わになった白い下着の
後ろを外す。
締め付けられていたような柔らかな胸が揺れて オスカーの手にこぼれた。
「あんっ」
その手に余るほどの感触は 熱を加速させる一方だった。
「これじゃ、きつくもなるな。ドレスは早く直させておいた方がいいぜ。」
ちゅ、と音をさせて口づけながら オスカーは片手でアンジェリークを
しっかりと抱き押さえる。
「…またすぐ きつくなるかもしれないけどな。」 
「やぁ、もうっ。意地悪…、」
踊る舌に意識を奪われたアンジェリークは 胸にうずまる紅い髪をギュッと抱きしめた。
オスカーは のけぞる背を支えながら それでも手と唇で絶え間なくアンジェリークを
辿り続ける。きっと もうオスカーの触れていない所なんてないだろう。
人の悪いような顔を向けながら 軽く咬んだ耳元て゛低く呟いた。
「どれだけ抱いたと思ってるんだ?育ちもするさ。」
 
そのセリフに濡れる瞳を僅かにそらせたアンジェリークは オスカーの首に腕を回すと
艶やかな唇から キスとため息をもらした。
「…オスカー様の予算削ってドレス代にまわしますからね。」
オスカーは その言葉に目を細めるとゆっくりとドレスを全部脱がせていった。
「仰せのままに、女王陛下。…知らなかったのか?俺の全ては君の為にあるんだぜ。
 アンジェリーク。」
「オスカー様…、」
「身ぐるみはいでも構わないから 責任はとってくれよ。」
「え?」
オスカーは アンジェリークの頬をその手に捕らえ 目を合わせる。
「俺から離れるなってことさ。」
 
幾度となく重ねられた唇は それでもいつもアンジェリークの鼓動を早める。
こんなに近くにいるようになっても 変わらない。
きっと これからもそうだろう。
 
「オスカー様こそ…、」
しがみつくようにアンジェリークはオスカーの広い背中に腕をのばした。
「オスカー様こそ 私から離れないで。」
「…いい返事だ。お嬢ちゃん。」
そうしてそのまま とけそうなほど馴染んだ身体に互いに飛び込む。
 
遠くで ドォンと 大きな音がした。饗宴のフィナーレと新女王の御代を祝う
花火がはじまったのだ。
薄暗いその部屋に色とりどりの光の欠片が舞い散った。
豪奢なドレスは惜しげもなく床に落とされたままで、溺れるように絡み合う恋人達の
揺れる影は 一瞬の閃光が幾度も闇に浮かび上がらせている。
濡れる音と誘う声が花火の音にかき消えても 2人の距離には関係なかった。
 
                                   END

 特別観賞用水槽ヘ戻る
 ANGEL FISHへ戻る