いまはもういないあなたへ
epilogue / Shinichi Kudou


 僕が黒羽さんや服部さんに会って、それからしばらくしたころ。僕は、僕のおじいちゃんとおばあちゃんだというひとに、会った。それは僕が会いに行ったわけではなくて、向こうが僕に会いに来た。どうやら母さんが呼んだらしい。
『工藤新一』の両親であるそのひとたちは僕のことを知っていたみたいだけれど、僕は何も知らなくて、会うのになんだかひどく緊張した。ずっと親戚なんていないと思っていたのに。
 僕へのたくさんのおみやげやお菓子をかかえて現れたおじいちゃんとおばあちゃんは、 僕を抱きしめてすこし泣いた。
 彼らは、おみやげと一緒に、いくつのかの『工藤新一』のものも持ってきてくれた。かなり遅い、形見分けのようなものだ。
 母さんは、おじいちゃんに太い黒縁の眼鏡を渡されて、それを大事そうに握りしめていた。とてもとても、大事そうに。
 僕は、彼が大切にしていたという、古い洋書の推理小説をもらった。僕はあまりそういうものに興味がないのでよく分からないのだが、すでに絶版になっているとか、その初版本であるとかで、かなり価値のあるもののようだった。
 古いけれど、大切に保管されていたのだと分かるその本を、なんとはなしにぺらぺらとめくっていたら、ページの間に写真がはさまっていた。

 古い、一枚の写真。

 そのちいさなフレームの中に、『工藤新一』と、母さんと、黒羽さんと、服部さんが写っていた。メディアに載っているような写真なんかじゃなくて、本当にプライベートで撮られたものだとはっきり分かる。
 それがどういうときに撮られたのかはよく分からない。それでも、みんなその中で、しあわせそうに笑っていた。
 僕が、メディアに出ている作り笑いのような笑顔ではなく、『工藤新一』の本当の笑顔を見たのは、それがはじめてだった。彼はこんな顔をして笑うひとだったのだと、はじめて知った。
 僕に似ているというそのひとは、笑っていた。母さんと黒羽さんと服部さんに囲まれて。笑っていた。しあわせそうに。きれいに、きれいに。

 彼はたしかに、そこにいたのだ。
 そして、しあわせだったのだろう。
 誰よりも、なによりも。

 彼は、しあわせだったのだ。


 わけもなく。
 僕は、すこし笑って、すこし泣いた。


 END