SCENE -Miss Lonly Yesterday-


 眠れずに、志保はベッドの中で寝返りをうった。けれどまだ眠気はカケラもやってこない。眠ろうと目を閉じても、ざわつくような胸のうちに、すぐにまた目を開けてしまう。そしてまた寝返りを打ち──その繰り返しだった。
 何度も何度も変に寝返りをうっているせいで、布団もシーツもすでにぐちゃぐちゃになってしまっている。枕元の時計を見れば、すでに時刻は丑三つ時と呼ばれる時刻に入っている。眠れずにいる瞳は、すでに暗さにも慣れて、灯りをつけなくても時計の文字盤が見えた。
 明日はいろいろ支度もあるから、6時には起きなければならない。けれどこれではもうあと3時間もない。それでも完全な徹夜よりはマシだろうと、すこしでも寝ようとするのだが、どうにも寝付けなかった。
 ガラにもなく、やはり緊張しているのかもしれない。──いや、緊張するなというほうが、きっと無理なのだろう。
 このまま眠ろうとしても、きっとシーツのしわを増やすだけだ。明日、クマの浮いたみっともない顔などさらしたくないが、どうしたってまともに眠れそうになどない。
(────)
 志保はひとつおおきく息を吐くと、眠ることをあきらめてベッドから体を起こした。このままでは埒があかないので、水でも飲もうと部屋を出た。夜なので音を立てないように気遣いながら階下へと向かう。
(明日)
 日付的にはもう今日なのだが、そのことを考えると、どことなく、現実感のない感じもする。今だって、階段を下りる床の感触も、水の入った風船でも踏んでいるようだ。瞬きをした次の瞬間、パチンと割れて、目を覚ましてしまうような気がする。
 ──それは、本当に、夢の夢だと思っていたから。
 まさか現実になることなんて、思ってもいなかったから。
 階下に降りると、リビングにはまだ明かりがついていた。
 今、阿笠邸には志保と博士しかいないから、誰かいるとすれば博士でしかない。11時ごろに、志保が明日にそなえて早めに部屋に戻るとき、博士も一緒に自分の部屋に引き上げたはずだったが、彼も眠れずに、また起きだしてきたのだろうか。
「博士?」
 リビングをのぞくと、予想通り、阿笠博士がテーブルに向かって背を丸めて何かしていた。
「何してるの? こんな遅くに」
「志保君。すまん。起こしてしまったか」
「違うわ博士。私も、なんとなく眠れなくて」
「そうか……」
 眠れずにいる志保の気持ちを博士も汲み取ったのだろう。何かをしみじみと思うように目が優しく細められる。本当の親のようにやさしい愛情の込められたその瞳に、志保の胸はやわらかく締め付けられる。
 子供の姿から元の姿に戻っても、阿笠博士は、変わらずに志保を屋敷において、娘のように可愛がってくれた。彼は志保にとって、もうひとりの『父親』だった。感謝など、いくらしてもし足りない。
「それで、博士は何していたの?」
「ああ。写真の整理じゃよ」
 見れば、博士の前にはいくつもアルバムや写真が出されている。まるでカードゲームでもするかのように、テーブルの上にところせましと並べられていた。彼女がまだ『灰原哀』だったときのものから、『宮野志保』に戻ってからのものも、たくさんある。
「なつかしいと思ってのう」
 その言葉には、限りない喜びとほんのすこしの寂しさが混じっていいる。きっと、それぞれの写真が撮られたその時々を、ひとつずつ思い出しているのだろう。
 志保も散らばっている写真へ目を落とした。手近にあった一枚を手にとる。
 それは、まだ子供の姿だったとき、博士とコナンと少年探偵団の皆とで撮った写真だった。この家の門の前で、博士を囲むように皆が並んでいる。なつかしい写真だ。
 写真の中で、少年探偵団の3人は、こぼれんばかりの笑顔をしている。博士とコナンも笑っている。けれどその中で哀だけが笑っていなかった。まるで証明写真でも撮るかのように口元を引き結んで、表情のない顔をしている。
 そのころ撮られた写真というのは、どれもそんな感じだった。哀が笑っている写真など1枚もない。いつもいつも、無表情で。
(おい灰原。笑えよ)
 不意に耳の奥に、声がよみがえる。昔言われた言葉。そう言ったのは、コナンだった。
 ちいさな身体に不釣合いな大きなカメラを哀に向けて。
(大丈夫だ。おまえはなにひとつなくさないから)
 あのとき、そう言ってくれたのだ。そのときは、そんな言葉、嘘になると思っていたのに──。



「灰原」
 呼ばれる声に振り向くと、その瞬間にフラッシュが光った。
 哀は光の残像にわずかに目を細めて眉をしかめる。その向こうにいるカメラを構えたコナンに問いかけた。
「一体なんのつもり?」
「写真、撮ろうと思ってさ」
「そんなことは見れば分かるわよ。私がきいているのは、何のために写真を撮っているのかってことよ」
 突然用もないのに阿笠邸にやってきたかと思えば、こんなふうにいきなりカメラなど向けて。彼の突拍子もない行動はいつものことだが、それに巻き込まれるほうの身にも、すこしはなってほしかった。今日は博士も出かけていて、彼の行動をたしなめてくれるひとは他にいない。
「いやまあ、ちょっとな」
 なんだか気まずげに言葉をにごすコナンに、哀はすべてを見透かすように皮肉げに笑ってみせる。
「おおかた、円谷君にでも頼まれたんでしょう?」
 昨日だったか一昨日だったか学校で、光彦は、『大人』は定期入れなどに好きなひとの写真を入れて持ち歩くことがよくある、などと歩美達にしゃべっていた。おおかた、テレビドラマか何かでそんな知識を仕入れたのだろう。そして大人ぶって、自分もそれを実践したくなったに違いない。
 けれど、肝心の写真を手に入れるのに、何処か気弱な彼は、コナンに哀の写真を撮ってきてくれとでも頼んだのだろう。
 光彦は、コナンをライバル視しているかと思えば、憧れにも近い想いをいだいていたりして、何かと頼りにしていたりする。そしてそんな光彦の気を知ってか知らずか、コナンも頼まれると、口では文句を言いながらもいつも彼を助けてやるのだ。
 コナンの顔が困ったようにひきつるのを、哀は見逃さなかった。
「私なんか撮るより、吉田さんの写真撮って、円谷君にあげたほうが喜ぶんじゃない?」
「おめーなあ……」
 写真撮影に協力するそぶりも見せない哀に、コナンがカメラを下ろして呆れた顔をする。
「そりゃ光彦は歩美ちゃんの写真でも喜ぶだろうけどな。──おまえの写真が、欲しいんだよ」
 言われた言葉に、どきりとする。
(おまえの写真が)
 写真を欲しがっているのは光彦で、コナンがそう思っているわけではない。彼がそう言っているわけではない。そんなことはちゃんと分かっているのに、錯覚しそうになる。
「だからほら。撮るぞ」
 コナンは再びカメラを構える。
「──あなたバカじゃない? 変に写真を避けるのも逆にあやしいから、ある程度は普通に撮らせているけど、基本的に私達は写真なんて証拠を残すのは危険なのよ」
「一枚くらいいいだろ」
 実際そういう理由もあるのだが、適当な言い訳でごまかしてカメラから逃れようとする哀を、コナンは逃さない。そのレンズはずっと哀を追いかけてくる。
「それにわざわざ今更写真なんかとらなくったって、皆でキャンプ行ったときの写真でもなんでも、いくらでもあるでしょう」
「たしかに写真はいくらでもあるけどさ」
 そのちいさな身体に不釣合いな大きなカメラを構えていて、それに阻まれて、哀からはコナンの表情は見えない。
「おまえの笑ってる写真は、一枚もない」
「────」
 その途端に、肺に深く冷気を吸い込んだかのように、哀の心が冷えてゆく。笑顔なんて作れないほど、表情が凍ってゆく。
「どの写真でも、おまえ、笑ってない」
 コナンはまた、哀を撮る。フラッシュの強い光が、こわばったような頬を照らし出す。
 もともと哀はあまり笑わない。日常の中でも、皮肉げな笑みをもらすことはあっても、本当に心から笑うということはほとんどない。けれど、最近は彼女も時折笑うようになってきたというのに。声をあげて笑うようなことはなくても、口元に確かに優しい笑みを浮かべることがあるのに。
 カメラを向けると、まるでわざと笑わないかのように、彼女は表情をなくす。──あるいは、笑えない、のか。
「おい灰原。笑えよ」
「やめてよ。写真なんて、好きじゃないのよ。写真なんて……!!」
 悲鳴のような声を、哀はあげた。
(写真)
 その言葉で志保が思い出すのは、大好きだったひと達の笑顔だ。幼いころに亡くなってしまった両親。でもその笑顔を思い出すとき、それはいつもモノクロームで、黒いフレームに囲まれているのだ。
 両親が亡くなったとき、遺影として使われたのは、志保の誕生日に、家族皆で撮った写真だった。
 いつも忙しく留守がちだった両親が、それでもこの日は2人ともそろい、10本にも満たないロウソクの立てられたケーキを前に、家族4人が笑っている。このさき、この家族にどんな不幸が襲うかなんて、誰も考えられないくらいに、ただ笑顔に満ちあふれた写真だった。誕生日の主役である志保は、つらいことも哀しいことも、何ひとつ知らない、しあわせな顔で笑っている。その隣では、幼い姉が笑っている。うしろには笑顔で両親が並んでいて。志保も大好きな、数少ない家族皆で取った大切な写真だった。
(おとうさん、おかあさん)
 忙しかった彼らの写真はほとんどなくて、だから、その写真の両親の顔部分だけ引き伸ばされて、遺影として使われて。
 今、どんなに思い出そうとしても、その写真の撮られた誕生日のしあわせな記憶はよみがえってこない。思い出すのは、葬儀の日の哀しい記憶だけだ。黒いフレームに囲まれた、モノクロームの笑顔。
「やめて。やめてよ。写真なんて撮ってどうするの? いつかすべて失くしたとき、残るのは、そのちいさな紙切れの中だけで。しあわせな思い出だった笑顔が、黒い額縁の中に入って。もうそのひとは笑ってくれないのに、その中でだけ、変わらずに笑ってる。それを見る気持ち、あなたに分かる?」
 彼は、いつかすべてを失って、そこにあったものは、その紙切れの中だけになってしまう日がくることなんて、そんな経験をしたこともなければ、考えたこともないのだろう。
 大好きだった笑顔が、一緒に撮った写真が、黒い額縁の中に納められて、それでもその笑顔だけそのままそこで笑っているのを見るあの痛みなんて、知りもしないのだろう。
(おねえちゃん)
(おかあさん)
(おとうさん)
 浮かんでは消える、大好きな人たちの笑顔。それは確かにしあわせだった日をとどめたはずなのに、もうそのしあわせは思い出せずに、哀しい記憶にだけ重なる。それなのに、笑顔だけは色あせもせずに、そこにあって。
「──灰原」
 静かな、コナンの声がする。
「大丈夫だから。だから。ほら。笑えよ」
「やめてよ。お願いだから」
「大丈夫だ。怖がらなくて、いいから。写真を撮っても、おまえはもうそれをなくしたりしないから。おまえは、もう何ひとつなくさないから。俺がぜんぶ守ってやるから」
「うそつき」
 その言葉を否定するように、両耳を拳できつくふさいで、哀は身体を縮めて何度もおおきく首を振る。
「うそつきうそつきうそつき──」
 そう、その言葉が、本当になるわけなんてない。哀がなにもなくさないなんて、ありえない。
 たとえ組織がなくなって、解毒剤ができて、『自由』になったとしても、そのとき哀は『工藤新一』を失う。
 彼は、彼女のもとに帰ってしまう。
 何ひとつなくさないなんて、嘘だ。そんなの、無理だ──。
 すべて写真の中にだけ、残って。
「哀」
 ふさいだ耳にそれでも聞こえてきた言葉に思わず動きが止まる。名前で、呼ばれた。
 驚いてコナンに視線を向ければ、彼はカメラを顔の前から外して、眼鏡さえ外して、まっすぐに哀を見つめていた。さえぎるものの何もない彼の視線が、すこし哀しげに歪められ、それでも優しく哀に向けられていた。
「笑えよ、哀」
 そうしてまた、カメラが向けられる。
 それでもまだ、哀は笑えなかった。
「哀」
 否定するように、何度も何度も首を振る。
 彼は優しいけれど鈍感で。だから残酷なひとだから。哀が何をなくしてしまうか、気付きもせずに大丈夫とか守るとか、そんなことを言うのだろう。
「哀」
「うそつき──」
 笑えなかった。
 どうしてもどうしても笑えなかった。



(なつかしい、わね)
 写真を見ながら、志保はそんな遠い日に思いをはせる。
 今ならそれも、笑って思い出せる出来事だ。
 彼の言葉がどうしても信じられずにいたあのとき。あれからいろいろあった末に、解毒剤が出来上がり、元の姿に戻れて、それから──。
(おまえは、もう何ひとつなくさないから)
 あの言葉どおりになって。
 そして──。
「博士。こんなことしていて、明日寝坊でもしたらどうするの?」
 志保は、まだ写真に向かい合っている博士に声をかける。
「ははは。ワシは大丈夫じゃよ。徹夜には慣れておるしな。それより志保君こそ、ちゃんと寝とかんと。なんせ、大切な日なんじゃからな」
「──そうね。それじゃあ私は部屋に戻るけど、博士も早く寝てね」
「ああ。わかっとるよ」
 徹夜に慣れているといえば、それは志保も同じなのだが、こんな日までわざわざ徹夜をしたくはない。志保は手にしていた写真をテーブルに戻して立ち上がった。
「じゃあおやすみなさい、博士」
「ああ。おやすみ」
 眠る前に、当初の目的である水を飲もうとキッチンへ行く。冷蔵庫から取り出した冷たく冷えた水を一杯飲むと、熱が引くようにだいぶ気持ちも落ち着いた。
 部屋へ戻ろうとテラスに面した廊下を歩くと、隣の工藤邸がよく見えた。工藤邸にはまだいくつかの部屋に灯りがついている。
 彼はもう寝たのだろうかと、テラスへと続く窓辺に寄った。からりと窓を開けると、かすかに冷えた夜の空気が肌に触れた。
「志保」
 不意に声をかけられる。
 見れば、新一が塀の向こう側に立っていた。
「まだ起きてたのか。そんなとこいると風邪ひくぞ」
「あなたもね」
 笑いながら、志保もテラスに出る。そうすると、新一と、胸くらいの高さの塀をへだてるだけになるのだ。
「そっち、リビングに明かりついてるけど、博士まだ起きてるのか? 明日寝坊したらどうすんだよ、『花嫁の父』がよー」
「私もそう言ったんだけどね」
「ま、娘を嫁がせるオヤジなんて、みんなそんなもんだよな」
「そっちも、優作さんと有希子さん、起きてるの?」
「ああ。でもこっちは、どっちかっていうと、遠足前にはしゃいで眠れない小学生みたいな感じだけどな」
 呆れたような新一の言い方とその表現に、志保は思わず笑ってしまう。たしかに夕方に会ったときの有希子のはしゃぎようなどは、その表現がぴったりかもしれない。
 明日──いや、日付的にはもう今日だ。
 今日は、志保と新一の、結婚式だ。
 結婚するからといって、別段変わることはない。嫁ぎ先は隣家なのだし、今までもこの家と隣とを、頻繁に行き来していた。状況的には、名前が『工藤志保』になることと、志保の住む家が名実共に工藤邸になる、という程度だ。これからだって、阿笠博士と毎日のように顔を合わせるだろう。それでもやはり、父親代わりの阿笠博士としては、娘を嫁がせる前夜の感傷に浸ってしまうらしい。
 また、息子の結婚式のため帰国している工藤夫妻も、やはり落ち着かないのだろう。なんだかんだいって、新一は、大事な大事なひとり息子なのだから。
「博士は何やってんだ? 博士まで酒飲んでて、明日二日酔いなんていやだぞ」
 新一の言葉からすると、工藤夫妻はどうやらこの時間まで、ふたりでグラスを傾けているようだった。秘蔵の洋酒でも出して、密かに息子の門出を祝っているのかもしれない。優作と有希子なら、酒に強いうえに、ちゃんと限度を知っているので、明日二日酔いなどという無様なことはまあないだろう。
「博士はね、写真の整理ですって」
「写真……か」
「ええ。昔の……子供だったころの写真とかまで引っ張り出して、眺めてるわ」
 志保の言葉に、新一は何かを思い出すように、すこし遠い目をして視線を宙にさまよわせた。
 ためらうようにすこしくちびるが音もなく動いたあと、彼は意を決するように話し出した。
「……あのな、本当はあのとき、写真、光彦に頼まれたってのは、嘘なんだ」
「え?」
 一瞬、新一が何を言い出したのか、志保には分からなかった。
 新一はどこか照れたように困ったように、髪をかき混ぜるように頭を掻きながら言葉を続ける。いつもはもっと気障な言葉だって、臆面もなく言ってのけるくせに。
「光彦が写真欲しがってたのは本当なんだ。でも別に、俺に頼んじゃいない。──ただ俺が、おまえの笑ってる写真が欲しかったんだ」
「────」
 それが何のことを言っているのか思い当たって──そしてその意味を理解して、志保は思わず言葉をなくす。
(おまえの写真が欲しいんだよ)
 あのときの、彼の言葉は。
 そうであればいいと願った、そのままに。
(怖がらなくて、いいから)
(写真を撮っても、おまえはもうそれをなくしたりしないから)
(俺がぜんぶ守ってやるから)
 あのときどうしても信じられなかった言葉。彼の、鈍感な残酷さの言葉だと思っていたけれど。あれは。
 言葉を発せずにいる志保をどうとったのか、新一はますます困ったように頭を掻く。
「その、明日も、写真撮るだろ? ──もう写真、怖くないか?」
 問い掛けられて、志保は、笑おうと懸命に顔を動かす。
「新一」
 本当は、泣きたいような気もした。しあわせで、しあわせすぎて、胸がいっぱいになってしまってうまく笑顔が作れない。
 でも今は、彼にちゃんと笑顔を向けたかった。
「あなたが、守ってくれるんでしょう?」
「──ああ」
 志保は、泣きそうだけれど、でも、とてもしあわせな顔で。
 新一も笑い返す。
「明日は、最高に綺麗な俺の花嫁が撮れそうだな」
「新一、寝坊しないでよ」
「するわけないだろ、この俺が」
「このまま寝なければ寝坊はしないなんて、子供みたいなことは言わないでね。私は嫌よ、目にクマ作った花婿なんて」
「…………」
 新一が言葉に詰まる。実はそんなことを考えていたらしい。思わず顔を見合わせて、ふたりで、笑いあう。
 笑顔の新一の隣には、同じように笑顔の志保がいて。
 これから、笑顔の写真が、増えてゆくだろう。しあわせな記憶と共に、増えていけばいい。
 もう怯えたりしないで。
 大丈夫。なにひとつ、なくしたりしないから。


 END