364日目の追憶
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遠い記憶の中に、微笑む君を見つける。
春と夏と秋と冬を過ごして、もう一度、同じ季節が巡ってくる。
君は覚えてる? 一緒に過ごした季節。ふたり、微笑みながら傍にいたあの頃。
若葉が風に揺れて、風に緑の匂いがかすかに混じる。
柔らかな陽射しが世界を包んで、すべてのものが光り輝くようだ。
「なあ、火村。俺達が出会ったのも、こんな季節だったよな」
アリスは誰もいない空間に語りかける。まるでそこに、今も彼がいるかのように。
「あのとき君がたまたま俺の隣に座らんかったら、きっと知り合いにもなってなかったんやで。そう考えると、縁ってのはおかしなもんやなあ」
柔らかな風が吹き抜ける。そこに風を受ける友人の姿はなくて、ただ風が通り過ぎていく。
誰もいない隣。それに、アリスはいまだ慣れずにいる。きっと、これからも慣れることなんてない。……慣れたくなんて、ない。
それとも、アリスの意志とは関係なしに、時が経てばいつかはひとりに慣れ彼のことも忘れてしまうのだろうか。
「あんなにずっと傍にいたのにな、俺ら」
自嘲ぎみにくちびるを歪めて笑った。こんな笑い方、一緒にいた頃は知らなかった。
そう、いつだって、傍にいた。
微笑んでいるときもあったし、怒っているときもあった。苦しんでいるときもあった。他の人には見せられないくらい駄目になっているときもあった。
それでも、どんなときも、傍らにいた。
それなのに、今はどうだろう。
何ひとつ、届かない。声も、腕も、心も。なにひとつ。
それほど、ふたり、遠く離れてしまった。
……どうして、こんなに離れてしまったんだろう。
「火村。俺は……君のこと、本当に好きだったんやで」
ぽつり、小さくつぶやく。
「…………もちろん、今も」
つぶやきは、誰にも届かない。誰も答えてはくれない。アリスだってそんなことは分かってる。
分かっているけれど。
「なあ、俺……君に会いに行ってもええか?」
アリスはうつ向きかけた顔を上げて、そこにいない彼の幻に語りかける。
「なあ火村?」
もしも今火村が答えてくれるとしたら、なんて答えただろう。
それは分かるような気もしたし、やっぱり分からないような気もした。
でも、どちらにしろ、火村はここにはおらず、何も言ってはくれないのだ。
だから、アリスは自分の意志でのみ、動く。たとえそれが火村の望まないことだったとしても。
君に会ったら、まず何を言おう。言いたいことがあり過ぎて、何を言えばいいのかわからない。
君は何を言うだろう。怒るかもしれないし、あの皮肉げな笑い顔で呆れるかもしれない。
分からないけれど、君に会いたい。会えるなら、それでいい。
そして会えたら、また、ずっと一緒にいられるだろうか?
「火村……」
ふわりと、アリスは笑った。
そして、一歩、踏み出す。火村に、会いに行くために。
END