CRIMSON


目の前に広がるのは、一面の紅。


「もしも君がほんとに人を殺すことになったら、
先に俺を殺してからいってな」

いつだったか言った言葉。
冗談めかしていたけど、俺は本気だった。

だって、そんな君なんて、絶対見たくなかったから。

向こう側に行ってしまった君は決して手の届かない人で、
俺では助けられなかったんだということの証で、
そのとき君の心の中にはもう俺なんていないだろうから。

そんな君を見るくらいなら、死んだほうがまし。

だから、

「もしも君がほんとに人を殺すことになったら、
先に俺を殺してからいってな」

そのとき君がなんて答えたか、覚えていない。


だけど。

一面の紅。
生温い紅い液体の中に横たわる俺。
それは血で……、
自分の体内から出たものだと気づくのにしばらくかかった。

目の前に立つ君は泣きそうな顔をしていて、
そんな顔の彼など見たことはなかった。

「……約束……守ってくれたんやな」

自分の、かすれて、ざらついた声。

身体より、心が痛い。
守りたかったけど、助けたかったけど、
それは、自惚れだったと知った。

だけど君は約束を守ってくれたから、
それで良しとしよう。

君は遠くへ行ってしまう。
俺では手の届かないところに。
だけどそんな君なんて見たくないから、
俺はゆっくり目を閉じる。


なあ、火村。
それでも俺は、君のことが好きだよ。


「…………アリス…………」

小さな、もう届かない呟き。

ぽつり、落ちた涙。
紅に染まって、消えた。


 END