妄想劇場 <グルーミング>


 空調の効いた応接室のソファの上で、綱吉は雲雀の膝の上に乗せられ、ぎゅうっと抱きしめられて、顔中にキスを落とされる。
 くちびるで触れられるだけでなく、雲雀の赤い舌が、綱吉の頬や鼻などをぺろりぺろりと舐めていく。キスと言うよりも、グルーミングと言った方が正しいのかもしれない。親猫が子猫の毛づくろいのために舐めてあげるのに似てると思う。顔中を舐められ、時折頬や耳などを軽く咬まれる。雲雀の気の向くまま、顔だけでなく、手を取られて指先や手首などにそうされることもある。
 けれどそれは、セックスにつながることは少ない。セックスをする前は、雲雀はもっと直接的に求めてくる。だから、これは性的な前戯とは違うのだろう。
 育ちのよい雲雀は怜悧で理知的であると同時に、こうして動物的なところがある。群や強い敵を見つけて嬉々として咬み殺すようなところもそうだが、こんなふうに甘やかす場面でもそういうところがある。──そう、多分、これは雲雀なりの愛情表現で、綱吉を甘やかしているのだ。だから綱吉もこの行為に抵抗しない。雲雀にされるがままになっている。
 雲雀の膝の上に乗せられて、ぎゅうっと抱きしめられて、グルーミングされていると、だんだんと眠くなってしまう。その気持ちよさにうとうとと綱吉は船をこぎ始めていた。
「眠いの?」
「はい……」
「寝てていいよ」
 眠そうに半分閉じかけている綱吉のまぶたにひとつちいさなキスを落として、雲雀はまた頬や鼻先を舐め始める。本当に、猫の親子のようだ。
 けれど綱吉は、それを心地よいと感じてしまう。与えられる行為の心地よさだけでなく、それは綱吉の心を満たす。雲雀のこんな一面を知っているのは綱吉だけだ。そして、雲雀にこんなことをしてもらえるのも綱吉だけだ。その事実が、心地よい。
 出会ったときは、こんなふうに思う日が来るなんて、想像もしていなかった。
 雲雀を一方的に知っていたころは、あの風紀委員長と知り合いになれるなんて思っていなかったし、リボーンが来て雲雀と交流をもつようになってからも、弱い草食動物である自分が雲雀に好かれるなんてあるわけがないとあきらめていた。綱吉の一方的な憧れで、こんなふうに雲雀の傍にいられるなんて思わなかったし、雲雀にこんな一面があるなんて知らなかった。
(ヒバリ、さん)
 もっとと甘えるように、綱吉の手がきゅっと雲雀の服をつかむ。
 そのかわいらしい仕草に、雲雀が目を細めて機嫌をよくして、またさらに熱心に顔中を舐め始める。舐めるだけでは物足りないというように、軽く鼻先を咬まれたり、逆に鼻を擦り付けるように触れ合わせてくる。咬まれる軽い痛みさえ心地いい。雲雀が自分を傷つけたりすることがないと、無意識に近いレベルで分かっていて、綱吉は安心して心地よさに身を任せる。
 訪れる眠気を振り払うことなく、そのまま雲雀の腕の中で、綱吉はまどろんで目を閉じた。


 END.