妄想劇場 <身長>


「「モリ先輩の彼女になる子は大変だよねえ〜」」
 ニヤニヤと人の悪い笑みで、双子がそんなことを言い出した。
 双子がこんな顔をするときはろくなことがない。暇で退屈だから、誰かからかう相手を探しているときの顔だ。今日は部のミーティングの日で、お客である女の子達はいない。しかしミーティングといっても簡単な打ち合わせと今後の予定報告だけで、他にすることはなく、つまり双子は暇なのだ。
 そして、本日のかわいそうな標的は、モリに決まってしまったようだ。
「ん〜? なんで崇の彼女は大変なの〜?」
 傍らにいたハニーが、かわいらしく首をかしげて尋ねる。
 普通に考えて、モリの彼女であって悪いことなど何もない。顔よし、頭よし、運動神経よし、家柄よし、寡黙で何を考えているのかちょっと分かりづらいところもあるが、基本的にはみんなに優しく人当たりもいい。これほどの好物件があるだろうか。
「ハニー先輩は分かってないなあ」
「モリ先輩がいい奴だってのはもちろん俺らも知ってるよ?」
「「問題は、この身長!!」」
 双子はシンメトリーに指をモリに突きつける。
 モリは192センチの長身だ。平均的な男子高校生よりも頭一つ分高い。
「身長高いとさ、エッチのときにいろいろ大変なんだって」
「入れてるとき身長差があるからキスできないとか」
「体位的に無理なのもあるだろうしね〜」
「やっぱエッチの相性も重要だからね〜」
「おっおまえら何をそんないやらしい話をしているのだ! そういうことはもっと大人になってからにしなさい!!」
 いかがわしいことを言い出した双子達に、環が真っ赤になって怒り出す。鏡夜はいつものことだと、呆れ顔で無視を決め込んだようだ。ハニーは興味津々の顔で双子とモリを見比べている。当のモリは、何も言わずに固まっている。
 騒がしくなる部内を打ち破ったのは、ハルヒの一言だった。
「そんなこともないですよ?」
「「「!?」」」
 まさかハルヒがその手の会話に入ってくるとは思わなかった環と双子は目を見開いてハルヒを凝視する。その視線に気付くこともなく、彼女はそのまま言葉を続ける。
「キスできなくても、代わりに頭撫でてくれたり、額にキスしてくれたりしますから。体位だって、特に変なことをしようとしなければ別に大丈夫ですし」
「「「!?!?!?!」」」
 まさかハルヒがそんなことを言い出すとは。いやそれ以前に、何故そんなことをハルヒが知っているのか。それは一体何を意味するのか。
 環と双子は雷に打たれたように真っ白になって固まってしまった。
「モリ先輩」
 ハルヒがモリの傍に近づいていって、その腕にそっと触れる。
「光と馨の言うことなんて気にしちゃダメですよ」
「それは気にしていない、が……」
「?」
「……小柄な女性が、大柄な男の子供を身籠ると、腹の中で子供が大きくなりすぎて難産になりやすいというからな」
 その言葉に、ハルヒはちいさく目を見開いたあと、ふわりと微笑んだ。
「モリ先輩。うちのお母さんって、ものすごく安産だったそうです。そういうのって遺伝するらしいですよ」
「……そうか」
 モリもハルヒに微笑み返し、ふたりの間にやわらかな空気が流れる。
「崇、よかったねえ〜」
 のんびりとハニーは花を飛ばす。
 白い灰になって風に吹かれていく環と双子の後ろで、鏡夜は「ハルヒは安産型……」とメモを取っていた。


 END