融解熱


 うつ伏せにされて、腰だけを高く上げるような格好を取らされた。腹の下にはやわらかな枕が重ねて押し込められているから、体勢的にはつらいということはない。けれど、ずっと丸見えの秘処をなぶられて、ハルヒはもう限界だった。
「やっ……きょう、や、せっ……い……もうっ……」
 荒い息継ぎのあいだにかすれた声が出た。
 秘処には鏡夜の長い指が3本入れられ、中をかきまわしている。そのあいだにも親指はくすぐるように襞をなぞったり、敏感な肉芽を強く押し潰したりする。
「あっ……」
 また与えられる刺激に、ハルヒはシーツを握り締めた。
 下肢は溢れた蜜でもうぐしょぐしょだ。鏡夜が指を動かすたび、卑猥な音がする。
「ん? なんだ? どうした、ハルヒ」
 背後から覆いかぶさって、耳を甘噛みしながら鏡夜が聞いてくる。そのあいだも指の動きが止まることはない。空いている腕は体の下に入り込んで、わずかなふくらみの胸を揉みあげる。
 他の人なんて知らないから比べようはないけれど、鏡夜の前戯は長いと思う。いつもいつも、ハルヒをこうして限界まで追い詰める。
 与えられるのは指だけで、決定的な快楽はない。それがひどくもどかしい。無意識に腰が揺れそうになるのを必死に押しとどめる。
「ふっ……」
「まだ我慢するのか? 強情だな」
 言葉と共に、中に埋められた指の動きが激しくなる。ハルヒの体など、彼女以上に知り尽くされていて、感じる部分を的確に擦りあげてくる。
「や、あっ、あんっ……!」
 強い刺激に、もうとめることは出来ずにハルヒの腰が揺れる。鏡夜の指をもっと奥へ誘い込もうと、もっと感じる部分を擦ってもらおうといやらしく腰がうごめく。けれどそれだけでは足りない。指よりももっと強い快楽を与えてくれるものがあることをその体は知ってしまっているから。
「ハルヒ。どうしてほしいんだ?」
 耳元で囁かれる言葉に、脳が溶かされる。理性なんてはじめからなかったかのように掻き消されて、本能と欲望だけで鏡夜を求める。
「指じゃ、やだ……きょ、うやせんぱ……が、ほし……っ。いれてっ……もっと、奥……」
 首を回し、快楽で潤んだ瞳で懇願する。
 そうすれば、眼鏡をかけていない鏡夜の瞳が、優しく微笑んだような気がした。
「ああ、それでいい」
 秘処から指が抜かれ、腰を掴まれたと思った瞬間、背後から貫かれる。指とは比べ物にならない熱さが、ハルヒを満たす。
「ああっ」
 一気に奥まで押し込まれ、その刺激だけでハルヒは軽く達してしまう。けれどそれに一息つく間もなく、深く抜き差しされ新たな快楽が与えられる。繋がっているところから出る水音と肌のぶつかる音が、荒い息遣いと共に部屋に響く。自らも快楽を求めて腰を揺らめかせながら、ハルヒは鏡夜の熱を感じていた。



 ぐったりと疲れた体を、ハルヒはシーツの中にうずめていた。あまりの疲労に起き上がることも出来ない。特になぶられ続けた下肢は被害甚大で、足に力が入らない。ずっといじられていた秘処は、まだ中に何か入っているような気がする。
 そうさせた張本人である鏡夜は、涼しい顔でひとりシャワーなど浴びてきて水を飲みながらベッドの端に腰掛けている。
 ほんのすこし恨めしげな視線を送ると、鏡夜はすぐにそれに気付いて振り向いた。
「なんだ?」
「……いえ、別に」
「シャワーを浴びたいならいれてやるといったのに、断ったのはおまえだろう?」
「それは本当に結構です……」
 確かにシャワーを浴びてさっぱりしたいという気持ちはあるが、この状態で風呂場に連れて行かれたらどうなるかなど目に見えている。薄暗い部屋のベッドの上でも恥ずかしいのに、明るい風呂場でなどもってのほかだ。
 とはいうものの、ハルヒがどんなに嫌がってももしも鏡夜がやると決めれば、きっとやらされてしまうのだろう。力で強制することがない代わりに、言葉と笑顔で上手く誘導しつつ、そうせざるを得ない状況に追い込むのだ。
 そう考えて、ハルヒは先ほどの自分の痴態を思い出した。いやらしく腰を振って、自分から鏡夜を求めた。別に今日に限ったことではなく、毎回そんなふうにさせられている気がする。
「鏡夜先輩って……サディストですよね」
「おいこら。失礼なことを言う奴だな」
 鏡夜が飲んでいたペットボトルを軽く額にぶつけられる。まだ半分以上入ったそれは、そのままハルヒに渡される。そうされてはじめてハルヒは自分が喉が渇いていたことに気付いた。水を飲むためにベッドに起き上がろうとすると、さりげなく鏡夜が手伝ってくれる。
 普段の部の裏支配者ぶりは置いておくとして、こういうときの彼はとても優しい。今だって、水を飲むハルヒを横から抱きかかえるように、ずっと支えてくれている。それに対して、行為中のあの傍若無人ぶりは、やはり性癖なのかもしれない。
(うーん、鏡夜先輩がそっちのひとだったとは……当然という気もするけど……)
 水を飲み終わったハルヒのくちびるを、鏡夜の指がぬぐう。
「おまえは頭で考えすぎるんだよ」
 鏡夜の言葉の意味が分からずに、ハルヒはちいさく首をかしげて彼を見上げた。
「こういうことは、理性なんか捨てて、本能で感じるものだろう? なのにおまえはいつまでたっても理性にしがみつくから、それを無理矢理壊してるだけだ」
「あ……」
 確かにハルヒは性格的に冷めたところがあって、あまり物事にのめりこむことがない。考えてみれば、ベッドの中でもそうだ。快楽を感じる体とは別に、頭で冷静にいろいろ考えてしまうことがある。そんな状態では、ハルヒも鏡夜も楽しくもなんともないだろう。けれどそれも、鏡夜に無理矢理溶かされて、最後には本能で彼を求めるだけになる。
 彼のしつこいくらいの愛撫は、ハルヒのためのもの。
 ハルヒがちゃんと鏡夜を感じられるように、彼女の理性を溶かすためのもの。
 理論的な彼は、いつだって理論に乗っ取って、大抵の場合とても正しい。
「……ありがとうございます、鏡夜先輩」
 ハルヒはほんのすこし照れながら鏡夜に微笑みかけた。
 鏡夜が無言でハルヒの手からペットボトルを取り上げるとベッドサイドに置く。
「さて、俺の優しさを分かってもらえたところで、本当の『サディスト』というのがどんなものか、ハルヒに教えておかないとな」
「えっ……ちょっ……いいですいいです、鏡夜先輩の優しさはもう十分分かりましたから」
「遠慮することはないぞ。時間はたっぷりあるんだからな。おまえにもよーく分かるようにじっくり教えてやろう」
「あのっ……んっ……」
 のしかかる体を押しのけることは当然出来ない。
 深いくちづけを落とされて、多分明日は丸一日起きられないだろうと思った。


 END