STRANGE PARADAISE
|
今度の任務は7班と10班で合同任務をすることになった。
任務を合同でするのなら、能力の等しいもの同士を組み合わせるのがいい。能力に差があるものを組ませると、必ずどちらかの負担になるからだ。だから新人下忍たちは合同任務につくこともよくあった。
下忍なったとはいえまだ子供である彼らが6人も集まれば、たちまちにぎやかになる。
そしてその中心には、いつもサクラがいた。
「サクラちゃーん」
相変わらずナルトはサクラへの好意を隠そうともせず、サクラにまとわりついている。
「おい春野、このあとどうすんだ」
天才的な頭脳を持つシカマルも、サクラには一目置いてる。
「サスケくん。一緒にやりましょう!」
サクラはサスケに近づいて、その腕を取った。なんだかんだ言って、サスケもサクラに慕われて悪い気はしていないのだろう。ほんのり頬が赤く染まっているようにも見える。
『頭がよくて』『かわいくて』『優しい』サクラ。
彼女のまわりには、常に笑顔と光があふれている。
いつも見られる光景。
それに、くすりと小さく、いのは笑った。しあわせそうに。
「サっスケくーん! サクラなんかほっといてアタシと組みましょ!」
「ちょっとイノブタ! サスケくんから離れなさいよ!」
いのがサスケに体当たりすれば、当然サクラが噛み付いてくる。
「やーよ。サスケくーん、こんなデコッパチほっといて向こう行きましょ」
「ちょっといのーーー!!」
いつもどおりのじゃれあいを、上忍たちも他の下忍も笑いながら見ている。
いつもどおりの、しあわせな光景。
深夜の薄暗い廃屋で、サクラは寝そべった男の足にまたがって、その肉棒を咥えていた。何も身につけていない白い体が、闇の中に浮かび上がる。
「はあっ……ふっ……」
「うわぁ……もう勘弁してくれよぉ……」
男が悲鳴に近いような弱音を上げる。
だがそれには耳を貸さずに、サクラは口に入れた肉棒をきつく吸い上げた。その刺激に、男はたまらずに射精する。
白濁した液は、少女の口の中に飛び散った。いくらかは顔に飛び散り、口の端を伝ってゆく。もうすでに何度も何度も精を放っている男の精液は、だいぶ薄くなって粘性もなくなってきていた。
少女は頬を伝う白液を指ですくい、口の端からこぼれるものを舌で舐めた。
「まだ……まだ足りないの……」
笑みの形に開かれたくちびるの向こうには、吐き出された精液と、それを乗せた紅い舌がのぞいている。緑の瞳は焦点をさまよわせ、うつろな光をたたえている。
「まだ……もっとちょうだい」
「ひいぃぃ」
サクラはまた、男の性器に指と舌を絡めてくる。だが、何度も無理に射精させられている男は、すでに性器に痛みを感じるほどで、新たな刺激に悲鳴をあげた。
色町への道をぶらついているとき、男は少女に声をかけられた。金はいらないから相手をしてくれというのだ。その誘いに、男はすぐに乗った。
ここは忍の里だ。色の修行に、忍者の娘が一般の男を誘うこともよくある。男は、自分がその幸運に恵まれたのだろうと思った。
色町の連れ込み宿へ行く間も惜しいというように少女は男を近くの廃屋に連れて行った。
少女の性戯はうまかった。この年齢にして、よほど慣れているのだろう。下手な色町の遊女よりよっぽどうまかった。男は寝転んでいるだけで、自ら積極的に奉仕をしてきた。男のモノを咥え、男にまたがって腰を振った。少女の口内も胎内も最高だった。思うが侭に快感をむさぼって精液を吐き出した。
射精が4度を迎えたところで、男はもう満足だった。
「ああ、ありがとよお嬢ちゃん。あんたは最高だったぜ。これならどんな敵忍者もイチコロだろうよ」
「まだ……」
「えっ」
起き上がろうとして、男は自分の体が動かないことに気付いた。何かの忍術──おそらくは金縛りの術がかけられているのだろう。顔や指先程度は動かせるが、身体は全く動かなかった。
「まだ……逃がさない……足りない……」
男を見上げ、うつろに少女はつぶやいた。
その緑の瞳に狂気の色を見つけて、男は息を飲んだ。すでに少女は正気ではなかった。いや、最初からそうだったのかもしれない。
どちらにしろ、男に逃げることは出来なかった。
いのが廃屋へ着いたとき、どれほど責められたのか男はすでに気を失っていた。下手な拷問よりもよっぽどつらかっただろう。
力を失った性器からは血が出ている。精液を吸い取られすぎて先端から流れる血だけでなく、口淫による摩擦で、ところどころ表面の皮膚が擦り切れて血がにじんでいるのだ。かわいそうに、とはカケラも思わないが。
だが、そんな状態の性器に、サクラはそれでもむしゃぶりついていた。
「サクラ、もう無理よ。その男もう勃たないわよ」
いのは廃屋の入り口から、声をかけた。だがサクラはその声が聞こえているのかいないのか、ただひたすらに肉棒をしゃぶっている。そして時折やわらかな男の性器を自分の中に入れようとして、けれどうまく入れることができず、どうにか勃起させようとまた舐めるということを繰り返していた。
餌をむさぼる餓えた獣のように浅ましい姿だった。
誰もが知っている、『頭がよくて』『かわいくて』『優しい』娘などどこにもいない。
いるのは、色に狂ったケダモノだけ。
「サクラ」
いのが呼んでも、サクラはこちらを見ない。
これは、サクラであって、サクラでないもの。
もうひとりのサクラだった。
いのが、このサクラの『異常』に気付いたのは、中忍試験のときだった。
中忍試験の予選でサクラと戦ったとき。いのはサクラの精神をのっとろうと、サクラの精神内へ入った。
そして、知ったのだ。
サクラの中には、精神が2つあった。
それは明らかに異常なことだった。
表裏のある人間、というのはいくらでもいる。みんなの前には出せない本当の自分、というのもあるだろう。
それでも普通、『精神(こころ)』はひとつだ。
完全に分離することはありえない。
分離しているとすれば、それは──
多重人格
そのときに、いのはサクラの中の『闇』を知った。
おそらくは本人も気付いていないが、サクラであってサクラでないものが彼女の中にいる。
いのはそれからしばらく、本人に気付かれないようにサクラを監視していた。
『それ』の存在はすぐにわかった。
明確な周期があるわけではないが、サクラの身の内に潜むそれは、時折表に現われた。
いつものサクラとは全く違う、もうひとりのサクラ。
もうひとつの人格が表に現われたとき、彼女はこうして男をむさぼるのだ。
「足りない……足りないの……」
サクラは髪を振り乱して血の出ている男の性器を舐めながら、ずっとうわごとのようにつぶやいている。いつまでも勃起しない男の性器にじれているのだろう。
「分かってるわ、サクラ」
いのが外に合図をすれば、背後から何人かの男が部屋に入ってくる。街で拾ったガラの悪い男どもだ。女を犯させてやると声をかければ、すぐについてきた。
「おっ、なんだよ、もうはじめてんのか?」
「結構かわいい娘じゃねえか」
「こいつかよ、ヤっていいって娘は」
男達は、全裸で男の性器をしゃぶっているサクラの姿に下卑た視線を投げつける。興奮していることは明らかで、息が荒くなっていた。
「ええ、好きなだけやってちょうだい」
いのの言葉に、早速とばかりに男達はサクラのもとへ寄っていく。その気配に反応して、サクラは気を失っている男の股間から顔を上げた。
「そんな男なんかより、俺らが相手してやるぜ」
男が近づくと、サクラは自らその足元に寄って、ズボンに手をかけた。中から性器を取り出し、嬉しそうに咥える。
「お、やる気まんまんだなあ、こいつ」
「よっぽど溜まってんだな、いいぜ、気のすむまで相手してやるぜ」
別の男が背後へまわり、うしろからサクラを貫いた。
「あぁ……」
サクラの口から、嬉しそうな声があがる。自分から腰を振り、懸命に男の肉棒を舐めている。
普段のサクラからは想像もつかないような浅ましい醜い姿。
それを見ていたくなくて、いのはそっと部屋を出た。
サクラがどうしてあんなふうになってしまったのか、いのは知っている。
おそらく、昔、男達に輪姦されたせいだろう。
まだ下忍にもなっていないアカデミーのころ、幼いサクラは里のごろつきどもから暴行を受けた。散々に暴行を受け、血と精液にまみれたままボロ雑巾のように打ち捨てられているところを里人に発見され保護された。
だがそのことを、サクラ自身は覚えていない。
そのあと高熱を出し数日間寝込んだあと、目を覚ました彼女は自分の身に起きたことを覚えていなかった。すべて忘れてしまっていたのだ。
おそらく精神的ショックのせいだろう、と診断された。そして、忘れているならそのほうがいいだろうと判断され、事実は闇に葬られた。
すべてを忘れたサクラは、前と何ら変わることはなかった。
それを、誰もがよかったと思った。いのも、そう思っていた。
だが、表面上は忘れていても、心の奥底ではその記憶が──疵が残っていたのだろう。
そして誰も気付かぬうちに──サクラ自身も気付かぬうちに『それ』は育っていった。
そしていつしか表面に出てくるようにまでなってしまった。
それが、『あれ』なのだろう。
外は、星が降るような、という形容がぴったり合いそうなきれいな空だった。
いのは空を見上げる。
ああなってしまったサクラを元に戻すには、彼女が満足するまで男を与えるしかない。満足するまでは、男を求め彷徨い歩くのだ。
いのは『サクラ』を取り戻したい。あの、いつもの明るい笑顔の少女を。
だから、彼女が彼女でなくなったとき、その手伝いをする。
サクラのもう一つの人格が出てきたとき、男を与えて彼女を犯させるのだ。
小屋の中からはサクラの嬌声と、男達の声が聞こえてくる。幾人もの男に責められて、隠すこともなく声をあげて悦んでいるのだ。
何度も繰り返されて慣れてはきたが、それでもそれを聞いているのはつらかった。
一体いつまで続くのか。一体いつ終わるのか。
できるなら、耳をふさいで逃げ出してしまいたかった。
だが、このあとにはいのの仕事が待っているから、このまま帰ってしまうわけにはいかなかった。
いのの仕事は、サクラを汚した男たちを殺すこと。
性交の途中でサクラ自身が男を殺してしまうこともあったが、そうでないこともあった。そのときは、いのが殺すのだ。ひとり残らず。
もしもいのが男だったら──あるいは、本当の男と変わらないほどに変化できる能力があったならこんなことはしなかった。いの自身がサクラを抱いていただろう。
だが、いのは見た目だけなら男に変化できても、その機能まで同じ働きをするようにはできなかった。それだけの変化能力がなかったのだ。
だからいのは適当に男を選んでサクラを犯させる。
自らそうしておいて、それなのに彼女を汚した男たちを許すことはできなくて──そいつらを、殺す。
彼女に触れた男をみんな殺して、その屍骸を始末して。
そして何事もなかったかのようにサクラをきれいにして──。
やっとすべてが終わるのだ。
やっとまた、しあわせな、いつもの朝が来るのだ。
見上げていた星空に、流れ星がひとつ流れる。
でも願い事はしない。
あんなものに願っても、何も変わらないことを知っているから。
あんな星ではなく、他の誰でもなく、サクラはいのがその手で守ると、決めたのだから。
「おっはよー、いの!」
翌日、集合場所にはすでにサクラが来ていた。今日も昨日に引き続いての合同任務なのだ。彼女は明るい笑顔でいのに手を振っている。
今の彼女は昨夜のことを何も知らない。ただ無邪気に笑っている。
その笑顔をまぶしげに、いのはすこし目を細めて見つめた。
「おはようサクラ」
ここにいるのは、いつもの『サクラ』、いのが大好きな少女だ。
そのことに、いのの顔には笑みが浮かぶ。
「あーあ。サスケくんまだかしら」
「ちょっといの、今日は私とサスケくんの邪魔しないでよね」
「なによ、邪魔なのはあんたでしょ」
「なんですってー!」
サクラと笑いあうこの日常が、いのは大切なのだ。この場所を、この風景を守りたいのだ。
けれど、このしあわせもそう長くは続かないだろう。
もうひとつの人格が現れる頻度も高くなってきている。やがて、彼女の精神が、完全にのっとられてしまう日が来るのかもしれない。
そうして、おかしくなったサクラと、何人もの男を殺したいのと。
いつか真実は露見するだろう。
そのとき里はどんな対応をするだろう。友人たちは、師は、どんな顔をするだろう。
それを考えると、すこし怖い気もする。
だがそれでも、いのはこのささやかなしあわせを守り続けるのだ。
いつか、終わりが来るその日まで。
END.