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      覚えているのは、優しい感触。たどたどしく触れる腕。
      痛みよりも、あたたかなぬくもりが、この肌を満たした。

      (ちゃんと見てて。ちゃんと覚えてて。
       今ヒナタを抱いてんのは、俺だから)

      ──うん。
      大丈夫。ちゃんと覚えてる。





 乱暴に揺さぶられる感覚にヒナタはうっすらと目を開けた。
 まぶたがひどく重い。殴られた頬が腫れて引きつっていた。ぼやけた視界に入るのは、薄汚れた天井と、下卑た笑みを浮かべる男達の顔。
「おっ、気が付いたか。やっぱ意識ねえと面白くねえもんな」
「ほら、こっちもちゃんと動かせよ」
 胎内に口内に出し入れされる、幾本もの男達の性器。体中を這い回る、無数の手や舌や肉棒。面白がってクナイで浅く深く肌を切る者もいる。
 けれどもう、ヒナタはほとんど何も感じなかった。痛覚だけでなく、ほとんどの感覚がもう麻痺している。
 敵地で敵忍につかまり、陵辱がはじまってから、一体どれだけの時間が過ぎたのか。
 すべてははじめから計画されていたことだった。
 こうしてヒナタが輪姦され敵を引きつけている間に、仲間が任務を遂行して、完了したら助けに来る手筈になっていた。
 けれど、まだ助けは来ない。
 任務のほうで何かあったのか、手間取っているのか、あるいは、実際はまだそんなに時間が経っていないのだろうか。
 ──分からない。
 ヒナタに時間の感覚はもはやなく、途中何度か意識を失ってはまた気付くということが繰り返されて、正確な時間はもう分からなくなっていた。
 どちらにしろ、仲間が助けに来るまでは、こうして陵辱を受け続けるしかないのだ。
 ヒナタにとっては永遠のように感じられた。いつ終わるとも知れない陵辱。
「ううっ」
「おめー相変わらず早えな」
「次俺な、俺俺」
 下卑た笑い声と、また注ぎ込まれる精液。
 ヒナタは固く握った拳に、さらに力を入れた。





      大丈夫。大丈夫。
      負けたりしないよ。
      こんなのは、違うから。
      たどたどしく、でも優しく抱きしめてくれたあの行為とは違うから。
      大丈夫。大丈夫。

      ナルトくん。
      あのね、帰ったら、ご飯作ってあげる。
      ナルトくんの家のテーブルの上、カップラーメンの空容器ばっかりだった。
      そんなのばっかりじゃ、体壊しちゃうよ?
      そんなに料理上手じゃないけど作るから、一緒にご飯食べよう?
      失敗しても、笑わないでね。

      帰ったら、ただいまって言うから、おかえりって言ってね。
      雨上がりのお日様みたいな、その笑顔を見せてね。





 ヒナタの膣からも肛門からも、何人もに注がれた精液があふれこぼれている。長時間に渡って激しい輪姦を受けた秘裂は、赤く腫れて、その口を閉じることもできなくなっていた。
 その様を男たちは嘲笑う。
「カワイソウになあ。こんなにされちゃってよう。くのいちにしちゃめずらしく、ろくに男も知らないような顔してたのになあ」
「ダメだねえ、木の葉も。くのいちはちゃんと教育しなくちゃなあ? その分俺たちがじっくり仕込んでやるからな」
 そう言ってまた胎内に肉棒を押し込んでくる。
 口を犯していた男は、達する直前にわざと抜いて、その顔にかけた。ヒナタのつややかな黒髪に、白い粘液がまとわりつく。
 また口に肉棒を押し込もうとしていた男は、その口角がわずかに上がっているのに気付いた。
「おいおい、なんだこいつ、笑ってやがるぜ」
「やられすぎて、頭おかしくなったか?」
「やられて嬉しいんじゃねえのか。マゾの血が目覚めたとか」
「そりゃあいい! もっと楽しませてやろうぜ!」
 男達は一斉に笑い出した。悪意のある笑いの渦が、礫(つぶて)のように叩きつけられる。
 痛みを感じても、不快を感じても、ヒナタにはもうそれに反応するだけの力も残っていなかった。ただなすがままに陵辱される。
 それでも、心だけは蹂躙されることがないように、胸の中に大切なひとの姿を思い浮かべる。
 忘れないように、間違わないように。
 大切なことを、見失わないように。





      ────あのね。

      あのねナルトくん。
      伝えたいことがあるんだよ。

      ナルトくんは、好きとか、愛してるとか、分からないって言ったけど、
      ナルトくんはちゃんと分かってるよ。
      きっと、誰よりも分かってるよ。
      そうでなければ、今、私の胸がこんなにもあたたかいはずがないもの。
      こんなにも、強くなれはしないもの。
      ナルトくんは、気付いてないかもしれないけど。

      たとえば私が言った『好き』の意味と、
      ナルトくんが言った『好き』の意味が違っていたとしても。

      ほら、この胸は、今、こんなにも。
      ね?





 途切れることなく陵辱は続いている。何十人もの男が、ひっきりなしに交代で、ヒナタを犯し続ける。
 そのうちに、ただ陵辱することに飽きたのか、もともとの趣味なのか、男達の何人かが、どこからか器具を持ってきた。
「おめえそんなことまですんのかよ」
「かーっ、このお嬢ちゃんもかわいそうになあ。こんな変態野郎にとっつかまっちまうんだからな」
「何言ってんだ、てめえだって楽しんでるじゃねえかよ」
 通常の状態でなら、とても直視できないような、卑猥で残虐な拷問用の器具たち。
 ヒナタはそれをぼんやりと見つめていた。
「すぐ天国に連れてってやるからな」
「天国って、ホントの天国じゃねぇかよ!」
「ヨガッタまんまイけるんだ、こいつも嬉しいだろうよ」
 男達にとって、もはやヒナタは『ヒト』ではなかった。自分たちの欲望を満たすための性的玩具。木の葉に対する捕虜としてさえ見られていなかった。
 面白がって打たれる薬と、無理矢理胎内に入れられる器具。
 子供がカゲロウの羽をもいで遊ぶように、残虐さを剥き出しにして、ヒナタを蹂躙していた。
 ヒナタはだんだんと霞んで遠のいてゆこうとする意識を、それでも必死でとどめようとした。
 固く握り締めた、自分の右拳を見つめる。
 そのなかにあるのは。





      ナルトくん。
      帰ったら、私、ナルトくんと一緒にいてもいいかな?

      多分、しあわせって、そんなに難しいことじゃないと思うんだ。
      たとえばナルトくんがくれた、この四葉のクローバーみたいに。
      足元にあって、すこし見つけにくくて、
      でもちゃんと、どこにでもたくさんあるんじゃないかな。

      それを、一緒に見つけていけたらいいなって思うの。

      ナルトくんが私にクローバー差し出してくれたみたいに、
      私もナルトくんに、クローバーをあげられたらって。

      晴れた日の河原でお弁当広げて、
      一緒にお昼寝したり、シロツメクサで花冠作ったりして、
      それで、ふと、足元にあるクローバーを見つけるみたいに。
      そんなふうに過ごせたらいいなって思うの。

      だから、
      ────一緒にいても、いいかな?





 何度目か、何十度目か、胎内に精液が注がれて、痙攣するようにヒナタの体が跳ねた。
 そのまま、腕が力を失って、くたりと地面に伏した。
 かすかに唇が動いて、声にならない声で大切な人の名を呼んだけれど、それは誰にも届かなかった。
 固く握りこまれていた右手が、力を失い開かれる。
「なんだあ? こいつなんか持ってやがる」
 その手にある何かに気付いて、男の一人が手の中を覗き込む。
 強く握り締められていたせいで潰れて、もうもとの形は保っていない、緑色の。
「……草、か?」
「けっ、草かよ。後生大事に握ってるから、任務書かなんかかと思ったのに」
 男は忌々しそうに、それをつま先で踏みにじる。
 それがもとはクローバーだったと、誰も気付かない。
「おい、この女息してねえぜ」
「別にいいんじゃねえ?」
「おいおい、死んでるってのに、おまえまだヤんのかよ」
「てめーそういうの好きだよな、この変態!」
 何がおかしいのか、男達の間に、また下卑た笑いの渦が起こる。
 手のひらからこぼれたクローバーは、踏みにじられて、ちぎれて土へと還ってゆく。
 力なく見開かれたままの白い瞳は、もう何も映さない。
 もう、何も。
 それでもまだ、その身体は揺らされ続けた。





      ナルトくんナルトくんナルトくん。

      大丈夫。大丈夫。
      私は負けないから。
      必ず帰るから。

      必ず、帰るから。

      そうしたら、私、一緒にいてもいいかな?





      一緒にいても、いいかな?




 END.