リバーシブル・エッジ 2
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薄紅色の花びらに彩られていた桜の木も、花はすでに散り、のびやかに陽射しを浴びて、緑の葉をのぞかせている。まだ入学したばかりで、どこかかしこまった感じだった1年生達も、やっと学校にも慣れ始め、校庭の木々と同じく自由にのびやかに、学園内を歩く姿が見られるようになってきた。
入学式以降騒がしかったテニス部においても、熱狂的な観衆も興味本位の仮入部員も徐々に姿を消し、以前のような落ち着きを取り戻し始めていた。
しかし、落ち着く周囲とは裏腹に、テニス部内部ではちょっとした揉め事が起こっていた。
「だから〜! なんでおチビがランキング戦に出ちゃ駄目なんだよ!」
菊丸が、部室の机を強く叩きながら、部長である手塚に抗議する。
「そうっすよ。越前は絶対戦力になりますよ」
それに賛同するように、同じくレギュラーである桃城が声をあげた。
二人に詰め寄られた手塚は眉間のしわを深くしたまま、腕を組んで微動だにしない。
「……あいつはまだ入部したばかりの1年だ。1年がランキング戦に加わるのは9月からと決まっているだろう」
「そんなの、テニス初心者の1年生のための『配慮』だろ? そんなのおチビには必要ないじゃん!」
「あいつは十分強いっすっよ!」
手塚の返答にも二人は納得しない。また食って掛かるように、言い返してくる。
揉めている原因は、新入部員である越前リョーマを今度のランキング戦に参加させたらどうかという提案にはじまった。
青学テニス部ではランキング戦といわれる校内戦によってレギュラーが決まる、いわば実力主義だ。その戦いでは学年など関係ない。強い者こそが勝ち残る、ただそれだけだ。そういう厳しい切磋琢磨があるからこそ、青学が強くあるとも言えた。
だがそのランキング戦には、1年生は9月以降からしか参加できないという決まりがあった。決まりといっても規則としてあるわけではない。慣習というよりは、菊丸が言ったとおり、テニス初心者である1年への『配慮』だった。
テニス部へはテニス経験者だけが入ってくるわけではない。ラケットを握ったこともない者もいるだろう。それなのに、もし1年全員を4月からランキング戦に参加させたら、テニスをやったこともない1年生が、全国レベルの3年生と戦わなければならないようなことにもなってしまう。だからはじめの半年は、1年生はまず基礎体力をつけたり、基本的な打ち方、ゲームの仕方を知ってから、という、いわば基礎訓練期間だった。
けれど越前リョーマは、1年生でありながら、すでにずば抜けた力を発揮していた。先日の桃城とのゲームでもそれは実証されているし、ついこのあいだは、絡んできた2年生を、ボロボロのラケットでありながら、それを技術でカバーしてみごとに打ち負かした。
それを受けて、レギュラーのみのミーティングをしているとき、誰が言い出したというわけでもないが、『越前をランキング戦に参加させたらどうだ』という話が出てきたのだ。
リョーマがランキング戦に参加するということは、ライバルがひとり増えるということだ。もしかしたら、今のレギュラーの誰かが落ちることになるかもしれない。けれど、そんなことでリョーマのランキング戦に反対するようなレギュラー達ではなかった。むしろ、是非戦ってみたいと、諸手を挙げて賛成したほどだ。
だがそれに反対する者がひとりだけいた。
部長の手塚だ。彼だけはリョーマをランキング戦に参加させることに難色を示していた。
基本的に、誰がランキング戦に出るかは部長である手塚によって決められる。つまり、手塚が了承しないことには、リョーマがランキング戦に出ることはない。それに納得せずに、手塚にこうして詰め寄っているのだった。
青学テニス部において、部長の決定は絶対的なものだった。権力としてではなく、手塚に対する信頼がそうさせるのだ。だから部長に抗議するというのはよっぽどのことだが、まわりにいるレギュラー達も、この暴挙をとめようとはしない。実際声を大にして叫んでいるのはこの菊丸と桃城の二人のみだが、他のレギュラーもほぼ同じことを思っているのはその表情からうかがいしれた。
どうあっても納得しないレギュラー達に、手塚はちいさく溜息をついた。
「手塚……別にいきなりレギュラーにするって言ってるわけじゃないんだ。ただランキング戦に参加させてみたらどうだと言っているんだ」
横から副部長である大石もなだめるように口を挟む。
たしかに1年生が4月の時点でランキング戦に出るというのは異例だ。だがその実力は皆が分かっている。そして、ランキング戦で勝ってレギュラーになったのなら、それはリョーマの実力だ。誰も文句は言えないだろう。
「……だが」
「手塚。竜崎先生だって反対してるわけじゃないんだろう? 反対しているのは君だけだよ。しかもその理由が『慣例だから』じゃ皆納得できないよ。それとも他に、何か理由があるのかい?」
まだ渋る手塚に、青学テニス部ナンバー2と言われ、いろいろな意味で恐れられている不二までが口を挟んできた。しかもそれはかなり核心をついていて、手塚は知らず知らずのうちに顔を歪めていた。
もともと無表情な手塚の変化など、普通の人が見ても、変わったかどうかなんて分からないだろう。けれど、付き合いの長いレギュラー陣にははっきりと分かった。
「なんだい? 他に何か理由があるのかい?」
「……別に理由など」
「嘘だっ! だって手塚なんか変だもん! なーんかいっつもおチビちゃんのこと気にしてる感じだし、なんか他に理由あるんだろっ?」
何も言おうとしない手塚に焦れたように菊丸が叫ぶ。
叫ばれた手塚は、言われたことに驚いたような顔をした。自分ではまったく意識してなかった、あるいは気付かれているとは思っていなかったらしい。それから、それを確認するように、不二へと視線を向けた。
「……そう見えるか?」
不二は無言でうなずいた。
他のレギュラー陣がどう思っているかは分からないが、少なくとも菊丸と不二はそう思っていた。あるいは、部内でも特に鋭い二人だから気付けたのかもしれない。
手塚は明らかに、越前リョーマをなんらか意識していた。リョーマがコートにいるとき、彼が遠くにいてもその姿を目で追っているし、いつもその動向を気にしている。このあいだ彼がまた荒井と揉めたという話を聞いたときも、いつもなら『部内を乱した』と怒るだけだろうに、明らかにリョーマのことを心配しているふうであった。
だが、たとえば手塚がリョーマに一目惚れをして、そのためずっと目で追っている、というようでもなかった。その行動には、もっと違う意味が含まれているように思えた。
そのくせ、手塚とリョーマが話をしたり、一緒にいるのを見たことはない。むしろ、直接的な接触はまったくない。いっそ、そうなることを意図的に避けているようにさえ見えた。
「はっきり聞くけど、手塚と越前君て、なにか知り合いなの?」
不二の質問に、一斉に手塚にレギュラー陣の視線が集まる。
誰もがその答えを知りたがっていた。特にその中でも不二や菊丸などは、正直に答えなければ許さないとでも言うように、強い視線を送ってきていた。
それに手塚はまた眉間のしわをすこし深くして、ちいさく溜息をついた。どうあっても、答えないわけにはいかないらしい。ずれてもいない眼鏡を押し上げる。
「別に秘密にしているわけでもないんだが……越前と俺は、はとこなんだ」
「え〜〜〜っ!!」
菊丸と桃城が素っ頓狂な声をあげる。他のメンバーも、声はあげないものの、一様に驚いて目や口を丸くしていた。あの不二も、いつもは閉じられた瞳が、驚きに開かれている。
「ハトコって、ハトコって、イトコみたいなもんだよね?」
「『はとこ』というのは『またいとこ』の俗称で、親同士がいとこである場合の親族語彙だな」
菊丸の問いに、律儀にも青学一のデータと知識を誇る乾が解説をしてくれる。
「つまり手塚と越前は親戚ってことか?」
皆を代表するような大石の質問に、手塚はうなずく。
「ああ。だからといって、俺はあいつを特別扱いするつもりはない。だが、血縁関係があるというだけで、他の者はそう思わない者もいるだろう。だからできればこのことはあまり他言しないでくれ」
この手塚国光という男が、親類関係があるというだけでえこひいきしたりするような人物でないことは、レギュラー陣ならよく分かっていた。彼は他人にも厳しいが、自分にはもっと厳しい男なのだ。
だが他の部員の中にはそうは思わない者がいるだろう。もし手塚とリョーマが親戚だと分かれば、何をするにも贔屓だと騒ぐ者が出てくるだろう。ねたみの感情は、何かと理由をつけたがるものだ。
「にゃ〜るほどね」
菊丸は、納得したように大きくうなずいた。他の者も、同じようにうなずく。
手塚は親戚だからと贔屓をすることはない。でも、様子くらいは気になるだろう。それが視線になって表われていたのだろう。
そしてリョーマをランキング戦に出すことに反対していたのも、あとで周囲に親戚だとばれたとき、それが贔屓だったのだと言われることを危惧したのだろう。
そう考えると、すべて辻褄が合う。誰もがそれに納得した。
「ダイジョーブだよ、手塚。おチビちゃんをランキング戦に出したって、誰もえこひいきだなんて思わないって」
「そうだよ。越前の実力は皆分かっているし、ランキング戦でレギュラーになったんなら、誰も文句は言えないわけだしね」
「ていうか、そんな奴俺がぶっ飛ばしてやりますよ!」
菊丸の言葉に大石も賛同する。桃城などは、その力こぶを見せるように腕まくりまでしてみせる。
「楽しみだにゃ〜。おチビちゃん、ランキング戦、何ブロックになるのかにゃ〜」
「俺もこのあいだの決着つけたいっすよ!」
「誰と戦うにしても楽しみだな。いいデータが取れそうだ」
ランキング戦は4つのブロックに分けて行なわれる。同じブロックでなければ、対戦することはない。しかし、自分と対戦することがなくても、リョーマが試合をする姿が見られるのだ。相手は仮にも青学のレギュラーだ。荒井相手の実力の半分も出さないようなものではなく、真剣な、白熱した試合がきっと見られるだろう。
周囲は、もうリョーマがランキング戦に出ることに反対する理由はなくなったとばかりに盛り上がっていた。
その様子に、手塚は何かを言いかけ──けれど言葉を飲み込む。
本当は、それが理由ではない。けれど、本当の理由は言えない。本当の理由を言えない以上、もう反対はできなかった。
こうして、レギュラー達の勢いに押し切られるような形で、1年である越前リョーマのランキング戦出場が決まってしまった。
ミーティングが終了し解散になったあと、不二と菊丸はそれでもまだしばらく話をしていた。話題はもちろん、越前リョーマのことだ。
「でも、手塚とおチビが親戚だったなんて、意外だよなー。手塚もそれならそうと言ってくれればいいのに」
「──そうだね」
「何? 不二、まだなんかあるの?」
リョーマがランキング戦に参加することが決まって上機嫌の菊丸と裏腹に、不二はまだ何か考えているようだった。
「──理由、ほんとに、それだけなのかな?」
不二のちいさな呟きは、けれどちいさすぎて菊丸には聞こえなかった。
「ん? にゃに?」
「……なんでもない。ランキング戦楽しみだね。レギュラー落ちしないように頑張らないと」
「不二が落ちるわけないじゃ〜ん」
「わからないよ。越前君強そうだしね。英二だって頑張らないと、ゴールデンペアの片割れがいなくなったら、大石だって困るだろう?」
「ひで〜! なんで俺のレギュラー落ちを前提に考えてるんだよ!」
「冗談だよ」
不二と菊丸は笑いあう。
今までのランキング戦は、ただの消化試合のようなものだった。けれど今回は違うだろう。どんな嵐が起こるか計り知れない。だがそれは、彼らにとって、『期待』となりうるものだった。今は、まだ。
結局ランキング戦は、特例ともいえる形で、1年生であるリョーマも加わって行なわれることになった。だがそれに文句をいう部員はいなかった。リョーマの実力は、すでに皆が認めるところであったからだ。2年でも3年でも、それに反対できる者などいなかった。
今回のランキング戦は、常にない熱さをみせていた。
去年の3年生が引退して以来、青学テニス部では、現レギュラー陣が飛びぬけて秀でており、それに対抗できるような実力の持ち主が他にいない状態だった。つまり、ランキング戦といっても、現レギュラー陣がいつも圧勝して再びレギュラーの座に着くだけで、落ちるか受かるかというような試合はなかったのだ。
だが今回は違う。新たな実力の持ち主が現れ、もしかしたら、レギュラーの誰かが落ちるのではないかという、緊張感に満ちていた。
またレギュラー陣も、越前リョーマの存在に影響されて、熱くなっていた。
そして、はじまったランキング戦では、1年生である越前リョーマが、現レギュラーである海堂を破ったことにより、さらに白熱していた。
もうすぐ乾対リョーマの試合の行なわれるコートのまわりには、多くの部員が集まっていた。今度は乾とどんな白熱した試合を見せるのかと、観衆は期待にざわめいていた。
そんななかで、手塚はコートの外から、ひとり、リョーマを見ていた。
リョーマはすでにコートの脇で、試合の準備をしていた。そのまわりに、同じ1年生が集まって、必死に何かを語りかけていた。きっと、応援を受けているのだろう。
他の1年と比べても、リョーマはちいさいほうに入るだろう。けれど、昔を知っている手塚から見れば、大きくなったと思う。
(リョーマ)
5年前、越前一家がアメリカへ行く前は、よく一緒に遊んでいた。
はとこといえば、血縁的にはある程度遠くなってしまうけれど、いとこ同士である親が仲がよかったため、手塚家と越前家は親しく付き合っていた。家も近所であったため、よくお互いの家を行き来していた。
手塚がテニスをはじめたのも、リョーマの父である越前南次郎の影響といってもよかった。
いつも厳格な祖父を見てきた手塚にとって、自由奔放で破天荒な南次郎は、憧れの存在であった。そのときすでにプロからは引退していたが、テニスをする南次郎を見て、その強さに惹かれ、テニスをはじめた。よくテニスの指導もしてもらったものだ。
そして、いつも一緒に遊んだちいさなはとこ達。
自分だって同じようにただの子供でしかなかったけれど、ちいさなはとこ達は、自分から見てもさらに子供に見えた。特に、2つ下で、体も小さかったリョーマは。
『くににー』
正確には『国光兄さん』を略した『国兄』と言いたかったのだろうが、まだ舌足らずな子供では、『くににー』と、まるで小動物の鳴き声のような発音になっていた。けれどそれが可愛くて、そう呼ばれることが嫌いではなかった。
まるで子鴨が、親鴨のあとを付いて歩くように、いつもいつも後ろについて来ていた。
喜怒哀楽が激しくて、ちょっとのことですぐに拗ねて、甘えん坊で。そのくせちょっとませていて。
兄弟のいない手塚にとって、彼らは本当の弟のようにかわいかった。
それなのに。5年前のあの日。あのとき、自分は。
「手塚」
呼ばれて、手塚は不意に現実に引き戻される。意識を、過去へと飛ばしてしまっていたらしい。
顔を上げれば、乾が傍らに来ていた。
「乾」
「これから越前と対戦だよ」
「…………」
手塚は眉根を寄せる。リョーマはすでに海堂を破っている。これで乾にも勝てば、レギュラー入りは決定だった。他のヒラ部員に負けるとは思えない。
乾の力を疑うわけではない。彼のデータテニスは、手強いものだった。だが、リョーマに勝てるだろうか。
──いや、海堂に勝った時点で、リョーマのレギュラー入りはほぼ決定してしまっている。乾に負けても一敗なのだ。おそらくリョーマは、レギュラーになるだろう。
手塚は知らず知らずのうちに、さらに眉間のしわを深くした。
それを見て、乾は声をひそめて、手塚にしか聞こえないくらいのちいさな声で尋ねた。
「手塚。おまえが越前をレギュラーにしたくない理由は、『5年前』のことか?」
「! 乾……どうしてそれを……」
手塚は驚いて、自分よりもさらに長身の乾を見つめた。
「俺が対戦相手のデータを集めるのはいつものことだろう? 竜崎先生から越前はアメリカの大会で何度も優勝していると聞いていたからな。何か記事でもないかと思って検索をかけたらね……」
「────」
「大丈夫、誰にも言う気はないよ」
乾はそう言うが、手塚はさらに眉を潜めた。
乾が『5年前』のことを知っているということにではない。乾に、そうも簡単に知られてしまったということについてだ。
そうだ。まだあれは、たった5年前のことなのだ。
まだ10年とすこししか生きていない自分達にとっては、5年というのは長く感じるかもしれない。けれど、世間的に見たら、それはわずかな年月なのかもしれない。5年前程度のことなど、きっと誰にでもすぐに調べられてしまうものなのだろう。あるいは、記憶として覚えている者もいるかもしれない。
「──ああ。あいつは強い。あいつが全国に出れば、すぐにその名が広まるだろう。そうすれば、おまえのようにあの事件を知る者も出てくるだろう。俺はそれが怖いんだ」
手塚は視線をコートにいるリョーマにあわせる。
テニスの試合は、なにもそのテクニックだけで争われるものではない。相手の弱点を突くために、精神的な攻撃を仕掛けられることだってあるだろう。そのために、『5年前』の事件を調べて持ち出してくる奴もいるかもしれない。
そのとき、リョーマのふさがりかけた傷が広がるのではないかと、また痛みに晒されるのではないかと。それが怖いのだ。
「だが、そんなことくらいは越前自身だって分かっているだろう? それでもあいつはテニスをしたいと望んでいるんだ」
「……分かっている。これは俺のエゴだ」
あるいは、恐れているはリョーマの痛みではないのかもしれない。
5年前の事件が再び明るみになることによって、自分の傷が広がることが、怖いのかもしれない。自分の罪が、晒されることが。責められることが。
「手塚……」
「Dブロック、試合をはじめます! 乾先輩いませんか〜!?」
審判役となっている部員の声が響く。もう試合時間が迫っていた。
「まあそのことは置いておくとしても、俺も全力で戦ってくるよ」
「──ああ」
乾はコートへと向かっていった。リョーマはすでに準備万端といったふうで、待っている。
観衆のざわめきがいっそう大きくなる。これからはじまる試合への期待に、集まる人数はどんどん増えてゆく。
やはり、リョーマをランキング戦に出すことは、無理を言ってでもとめるべきだったのかもしれない。
これからの試合の結果を、手塚はほぼ確信していた。
きっとリョーマは乾を破り、レギュラーになるだろう。
思うのは、これから先、リョーマの名が広まってゆくことだけではない。リョーマがレギュラーになれば、ただの部員と違い、接触する機会も必然的に増えてゆくだろう。
そのときリョーマは、自分に対してどんな視線を向けるだろう。憎しみだろうか、それとも、視線さえ向けてはくれないだろうか。
『くににーだいすき』
あの子供の笑顔を奪ったのは自分だ。許されるとは思わない。まして、それでもテニスを続けている自分が、許されるわけもない。
ただ。
自分に向けてでなくていいから、もういちど、昔のように笑ってくれないだろうかと、手塚は思った。
To be continued.
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