あの扉の向こうに(1)
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宮殿の奥には、ほとんどの者には知らされていない秘密の会議室があった。
一般には決して知らされないような、時としては守護聖にさえ知らされないほどの、極秘で重要な話し合いをするときにのみ使われる部屋だ。
今、その部屋に置かれたテーブルを囲む影があった。
丸いテーブルを囲んでいるのは4人。光の守護聖ジュリアス、闇の守護聖クラヴィス、地の守護聖ルヴァ、そして女王補佐官ディア。
「もうこれ以上待つことはできん。宇宙はまさに崩壊しようとしている、新しい女王が必要なのだ」
ジュリアスはかなり苛立った様子で言い放った。
「貴方の言い分も分かるのですがねー、肝心の彼女がああでは、私達にはどうすることも出来ませんよ」
ルヴァとて守護聖として、宇宙崩壊の危機は感じている。けれど実際、自分達にはどうすることも出来ないのだ。どうにか出来るのは、彼女のみ。けれど、その彼女は今……。
「陛下は何と言っておられるのだ、ディア」
ジュリアスは、いつも女王近くに控えているディアに意見を求めた。
「陛下は、女王試験を行なってみたらどうかとおっしゃっております」
「女王試験……? そんなもの、必要ないのではないか?」
気だるげにクラヴィスが呟いた。
「ええ、もちろんそういう意味で試験をする訳ではありません。ただ、試験を通して彼女が再び心を開いてくれたら……この宇宙を担うことの意味に気付いてくれたら……そうお考えなのです」
「なるほどな」
「確かに、それはいい考えかもしれない。さすがは陛下だ」
「でも、具体的にどうするのです? まさか、彼女ひとりだけで試験を行なう訳にもいきませんし、他の守護聖達にも事情を話すのですか?」
ルヴァが尋ねた。試験方法としてはいつもと同じように、大陸を育成させてみるのだろうが、今回は少し勝手が違う。
「試験の相手ならば心配いりません。とてもよい人材を見つけてありますから。ただ、他の守護聖の方々に事情をお話しすべきかどうかは……」
「話さぬほうがよいのではないか? 事情を話せば反対する者もいるだろうし、嘘の下手な奴もいる」
「そうですね」
クラヴィスの意見に、ディアもうなずいた。ルヴァとジュリアスも同意見だった。
「それで……試験はここで行なうのですか?」
「いいえ。ここは彼女にとってつらい思い出のある地。この聖地で試験をすれば、彼女は心を閉ざしたままでしょう。ですから、飛空都市で行なおうかと考えています」
「飛空都市……」
きらり、クラヴィスの前に置かれた水晶に、何かが映った。
それは、金の髪に翡翠の瞳の…………。
やめて。
私を起こさないで。
このまま、眠っていたいの。
だって、…………だから。
一面の赤。
むせかえるほどの血の匂い。
赤い池の中に横たわる人影。
…………おかあさん。
呟いた言葉は、もう届かない。
やめて。
私を起こさないで。
お願いだから。
「このたび、女王試験を行なうことになった」
一同に集められた守護聖達は、ジュリアスの言葉にざわめいた。
「試験の場所は飛空都市。そこで女王候補達に我々のサクリアを使って大陸を育成してもらう。我々も共に飛空都市でしばらく生活することになる」
「あー、そんなに大変なことではありませんよ。ただ私達は女王候補の望み通りに大陸にサクリアを送る以外には、特に今までの仕事と変わりありませんから」
「それで……女王候補とは、どんな人物なのです?」
オスカーが皆の意見を代表して、一番知りたいことを尋ねた。
ジュリアスが軽く手を上げると、空間に人の映像が映しだされた。紫の髪に、自信に満ちあふれた瞳をした少女。
「ひとりはロザリア・デ・カタルヘナ。何人もの女王や守護聖を出している名門カタルヘナ家の者で、本人も女王候補としての教育を受けている。もうひとりは…………」
声に従うように隣にもうひとつの映像が浮かび上がった。
「えっ?」
「……これが……女王候補?」
そこに映しだされた少女の姿に、皆が驚き声をあげる。驚かないのは、事情をすべて知っているジュリアス、クラヴィス、ルヴァの3人だけだ。
「アンジェリーク・リモージュ。これが、もうひとりの女王候補だ」
浮かび上がった映像は、金の髪に翡翠の瞳の可愛らしい少女。
ただ、彼女はどう見ても、10歳程度の幼い少女だった。
To be continued.
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