あの扉の向こうに(7)
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何もなかった部屋は、いつの間にか、色々なもので埋め尽くされた。
何も入っていなかった棚にはぬいぐるみや置物が所狭しと並べられ、入りきらなかった置物は、サイドボードや机の上に並べられた。テーブルにはテーブルクロスがかけられ、その上には細かな細工の花瓶と、色の綺麗な花。
殺風景だったアンジェリークの部屋は、ほんの数週間の間に、同じ部屋とは思えないほどに変わっていた。
この部屋を変えたのは、アンジェリーク自身ではなく、炎の守護聖オスカーだった。
何度もこの部屋を訪れ、そのたびに色々なプレゼントを抱えててきて、この部屋を変えていった。
(どうして?)
口には出さず、いつも心の中だけで、アンジェリークは思っていた。
(どうして私にかまうの? どうして私に会いに来るの? どうして色々なものをくれるの?)
アンジェリークには、オスカーの真意が分からない。
たとえば、この贈り物を贈られた相手が、妙齢の女性だというのなら分かる。相手の気を引くために贈り物をするというのはよくあることだ。でも今のアンジェリークは10歳で、オスカーがそういう意味で興味を持ちえる対象にはならないだろう。
ならば何故なのか。
アンジェリークには分からない。でも、それを口に出して尋ねることは、何故かできなかった。怖かったのだ。それを否定されることも、肯定されることも。
今のアンジェリークでは、10歳の姿のままでは、当然オスカーに釣り合いもしないだろう。そして、このままなら、あと10年経ってもアンジェリークは10歳のままだ。一生、オスカーに釣り合うような人間にはなれない。
(私が、子供だから)
それは、アンジェリークが望んだことだ。ずっと子供のままでいたいと、そう願った。
母親を殺してしまったあの日、アンジェリークは誓った。もう大きくはならないと。
(私はもう、大きくなんてならない。ずっと子供のままでいる。だって、大きくなれば……)
あれからずっと、アンジェリークは10歳のままだ。
(おかあさん……)
優しいひとだった。あたたかいひとだった。愛していた。
父親は、アンジェリークがお腹にいるときに、病気で亡くなったそうだ。そして女手ひとつでアンジェリークを育ててくれた。片親であることを感じさせないくらい、愛してくれた。
それなのに。
七年前のあの日、アンジェリークはその母親を殺してしまったのだ。
不慮の事故だと言われても、アンジェリークのせいでないと言われても、アンジェリークは自分が許せない。
だからあの日誓った。もうこれ以上大きくならないと。
(でも……)
誓いと相反する想いが、アンジェリークの中に生まれ始めていた。アンジェリーク自身も気づかないほど深い心の奥で。いつのまにか。
(……オスカー様……)
止まったはずのアンジェリークの時が、ゆっくりと動きだそうとしていた。
ゆっくりとゆっくりと。
アンジェリーク自身さえも、気づかないうちに。
To be continued.
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