静穏 0


 どちらからともなく、なんとはなしに、手をつないだ。
 細い指先が、痛いくらいきつく、自分の指に絡んでくる。
 伝わるぬくもりが、自分を埋め尽くしてしまいそうで、コワイ。
 ココロが冷たい人は、そのぶん手があたたかい、というのは、きっと真実。
 だからこの手はこんなにもあたたかい。
 まるで首を絞められているみたいに息苦しくなる。
 いつか来る終わりが今ならいいのに。

「……君は今、何を考えているの?」
「……あなたのことよ」
「やっぱり、君の考えていることはよくわからない」

 くすくすと、楽しげに笑う、そのキレイな横顔。
 彼は、ヒトが望んで得ようとして、けれど決して手に入れることの出来ないモノがダイスキだった。
 空に瞬く星、とか。地平線を染める夕陽の色、とか。本当の愛、とか。
 だから、私に興味を持ったのも、たぶん、そのせい。
 私が手の届くところまで堕ちてきたら、彼はその瞬間に、消える。きっと。
 だから私は、ずっと、ウチュウノジョオウでなくてはいけない。
 彼の手の届くモノであってはいけない。

「僕が欲しいと思うものは、決して手に入らないんだ」
「それは、あなたが手に入らないものだけを欲しがるからでしょう」
「ちがうよ、僕はそういうウンメイなんだ」

 彼はキレイな言葉を並べるのが大好きで、そうやって弱い自分をコーティング。
 剥がされないヴェールの向こうは誰も知らない。私も。
 あるいは、向こうなんてないのかもしれない。
 彼を覆うそのスベテを取り外したら、そこにはなんにもナイのかもしれない。
 ココロも、カンジョウも、タマシイも。なんにもナイ。
 でも、だからこそ、きっと、キレイ。

 絡んだ指先のチカラがゆるめられることはなくて、振りほどくのはいつも私から。
 いつか来る終わりが今ならいいのに。
 それなら、きっと、私は彼の記憶の中にノコレル。
 私が彼に手を伸ばしてしまう前に、終わりが来ればいい。


 アイがニクシミに似ているのか、それとも、ニクシミがアイに似ているのか。
 その答えが、今、この手の中にあればよかった。


 To be continued.

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