Go home, sweet sweet my home! 4
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とりあえず、オスカーは晴れて(?)アンジェリークと結婚することが決まり、その報告を女王にもすることとなった。
女王候補であるアンジェリークの結婚(妊娠)ともなれば、当然女王候補辞退ということにもなるし、オスカーも一応守護聖であるので、その報告のための正式な謁見の場が設けられた。
謁見の間には、中央の通路の両脇に、守護聖とロザリアが並び、いや〜なムードをかもしだしている。彼らに挟まれるように中央の通路にひざまづいて、女王の登場を待っているオスカーはいたたまれない気分だ。
ちなみにアンジェリークはこの場にいない。倒れたばかりの身体を気遣って、彼女は休養をとるようにと医師に言い渡され、王立研究院の特別室(アンジェリークのために設けられた)で検査をしながら休んでいるのだ。
アンジェリークがいたなら、もうちょっとやわらいだだろう雰囲気も、オスカーひとりでは刺々しくなるばかりだ。オスカーは身を縮こまらせて、それに耐えるしかない。それもこれもすべて、愛する天使を手にいれるためと思えば、耐えられないこともない。というか、このいたたまれなさにもだいぶ慣れてきた。
「皆様。女王陛下のお越しです」
奥の扉からディアが現われ、声をかけた。その声に、皆が居住まいを正し、礼をとる。
ディアとともにヴェールを深くかぶった女性が現われ、玉座に座った。守護聖ですら、滅多に姿を見ることの叶わない、おそれ多き女王陛下である。
オスカーは再び礼をとると、女王に用件を切り出した。
「女王陛下。この炎の守護聖オスカーより、ご報告があります」
かしこまって深く頭を下げたオスカーの上に、玉座から声が降ってきた。
「なんだ、言ってみろ。この万年発情期」
「……………………………………」
もしかしてそれは自分のことだろうか、などと、思わずオスカーは考えてしまった。考えたのちに、やっぱり自分のことなんだろうなあと、むなしい結論がでてしまったりしたが。
いやそうではなくて。
…………今その台詞を言ったのは、女王陛下、だろうか…………。
あまり人前に姿を現さないことから、神秘的と評される女王陛下は、顔を隠しているのと同様、その声を聞く機会もあまりなかった。ほとんどのことは代わりにディアがしゃべるからである。オスカーも、短い一言二言や、返事くらいの言葉以外、聞いたことがない。だから、その声が女王陛下のものかどうか、とっさに判断がつかなかった。いや、判断を鈍らせたのは声というよりも、内容のほうだったのだが。
女王陛下のその声は、女性にしてはいくぶん低めの、けれど落ちついたいい声だった。 その声が言ったのだろうか。『万年発情期』と。そんな下品な台詞を。女王陛下が。
「…………………………………………」
同じことは、年長組の守護聖とディア、そして女王本人をのぞく、すべての者が思ったらしい。部屋に、なんとなく沈黙が流れた。
オスカーはちらりと顔をあげて、玉座に座る女性を見た。
ヴェールに隠れて顔はよく見えないが、椅子にどっかりと座った姿はまさしく『女王様』である。
言葉を返さないオスカーに、幾分イライラしたように、さっきと同じ声がまた聞こえた。
「おまえが何も知らない純真なアンジェリークをたぶらかして、屋敷に連れ込んで、たらしこんではらませた話は聞いた。それで?」
「…………………………………………」
オスカーと周りに居並んだ者達は、思わず呆気にとられた。
年長組の守護聖3人とディアは、思わず額を押さえた。あーせっかく今まで隠してきたのに、という気分である。
女王は、はっきり言って口が悪かった。
女王候補のころから知っている年長組守護聖とディアはそれを知っていた。
この女王があまり人前にも出ず、出ても女王がしゃべらず代わりにディアがしゃべっているのは、女王としてはあまりにふさわしくないこの口の悪さがばれないようにだった。(ヴェールは本人の趣味)
それを人々は勝手に神秘的だとか奥ゆかしいとか、都合よく解釈してくれて、ラッキーとか思っていたのだが、思わぬところで真実がばれてしまったものである。
まあ本人も自分の口の悪さを自覚しているので、いつもはディアに任せて口をつぐんでいるのに、今日に限って口を開いたのは、彼女も、オスカーなどにお気に入りの可愛い少女が引っかかってしまったことを腹立たしく思っているからだろう。ちょっとは自分の口からがつんと言ってやらねば気がすまない。
「……いやあの、アンジェリークと結婚するつもりですので、その報告と、アンジェリークの女王候補辞退のお願いを……」
勝手に作り上げていた『女王陛下像(理想)』と予想外の実際の姿のギャップに、ちょっとどもりながらオスカーは言った。
しかも、口調からして、女王も自分とアンジェリークのことを快く思っていないようである。女王陛下ににらまれるのは厳しい。なんたって、この世界の法である。
「おまえなんかでアンジェリークをしあわせにできるのか?」
ざくっと、言葉がオスカーに刺さる。
ディアの言葉も痛かったが、女王の言葉はもっと痛かった。さすが、女王試験でディアに勝っただけことはある、と、変なところで妙な感心をしてしまったりした。
「だいたい守護聖なんてもんは、結構若いうちから聖地なんてとこに来てるから世間知らずだし、守護聖様〜とかって変に崇められるから、みょーにプライドだけ高くなったり、そのくせ実際は意気地がなかったり、サクリアのせいで傾向が片寄るから変な趣味に走る者も多いしな。ろくな奴がいない」
さりげなく(?)オスカー以外への嫌味も十二分に含まれていたが、それでもオスカーにも十分痛いお言葉だった。
オスカー以外にも、それは私のことだろうかと、ちょっと耳の痛い守護聖も何人かいたりする。
「で? おまえはアンジェリークを本当にしあわせにできるのか?」
女王はもういちどオスカーに尋いてきた。
それがいちばん重要で重大なことであった。
オスカーも、それには顔をあげ、女王を真っ正面から見ながら答えた。
「かならずしあわせにします!!!!!」
握り拳で力んで叫んでみる。これが映画なら、バックに打ちつける波か、燃え盛る炎が現れるところだろう。
「ふ〜〜〜〜ん」
しかし、鼻で返される女王の返事は、かなりその言葉を信用していないようだった。
信用されない理由についていろいろ思い当たるオスカーは冷汗ものである。次にどんな痛いことを言われるかと、内心ビクビクしていた。
が、女王の言葉は予想に反してあっさりしたものだった。
「ま、いいだろう。結婚すればいい」
「ほ、本当ですか!?」
予想外にあっさりと結婚の許可が出て、オスカーは驚く。もっとねちねちいじいじといびられるかと思っていたのだ。
やっぱりちょっときついこと言っても、陛下は俺のことを信用してくださってたんだ〜、とちょっと感動していたオスカーに、女王の冷たい言葉が投げられる。
「まあ、アンジェリークに何かあった場合は、新しく女王になったロザリアがおまえをすぐに処分するだろうしな」
「もちろんですわ、女王陛下!!! アンジェリークに何かあったら、私が絶対に許しません!!!!」
ロザリアは強い決意を滲ませて、力強く答える。
女王が信用したのはオスカーではなく、次期女王のロザリアの采配であった。
思わずがくっとオスカーはうなだれるが、とりあえず結婚の許可が出たことには変わりない。
こうして、オスカーとアンジェリークの結婚は、女王にも認められ(?)、正式に決定した。
……(オスカーの)春は近い……のだろうか?
To be continued.
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