この、腕の中の君に
-Last Kiss for dear Doze Angel-
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 それは、もうずっとずっと、昔のこと。
 聖地に招かれるよりももっと前。草原の惑星にいたころ。
 なんにも知らない、子どもだったころ。

 そのひとの顔など、もう思い出せない。
 ただ覚えているのは、土色の、しわだらけのひからびた手。濁った茶色の瞳。
 大人達はその老人を、予言者だと言ってあがめていた。子供であった自分は、それを信じなかった。

『オスカー。おまえは、いつか』

 その老人の言うこは、いつもくぐもって聞こえづらく、しかもそれは意味のないことやわけの分からないことばかりで、だから、ぼけた老人の戯言だと、いつも聞き流していた。
 それなのに、何故そのときだけ、死を間近にしたそのときだけ。
 まるで、大人達が言うように、本当の予言者のように、はっきりと厳かな声で。

『愛する者を、その手で』

 その濁った瞳は何を映しているのだろう。おそらく、自分には見えないものを、映していた。
 その老人を、初めて怖いと思った。恐怖ではなく、畏怖という感情で。
 何故大人達が、彼をあがめるのか。そのとき分かった。


『死へと、導くだろう……』


 それが、老人の最後の言葉になった。






 彼の遺した、最後の、予言、になった……。




 To be continued.

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