未来の想い出 0-1
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「これが、俺達の子供か」
青年はものめずらしそうにけれど愛情を込めた瞳で、妻の腕に抱かれた小さな塊を見つめた。生まれたばかりの赤ん坊は母親の腕に抱かれて、幸せそうに微笑んでいるように見える。
「ええ。男の子よ」
母親となったばかりの彼女は、愛しげに、抱きしめた小さな命をあやす。
その顔を見ているだけで、さっきまで感じていた、出産の痛みなど吹き飛んでしまう。
「髪は、君と同じ綺麗な金髪だな」
その頭に、まばらに生えている金色の髪に軽く指を絡めてみる。母親と同じようにやわらかにうねる髪は、綿毛のような手触りだ。
「そうね、でもきっと瞳は貴方と同じ蒼よ」
「どうして分かるんだ? まだ目は開いていないのに」
「なんとなく……そんな気がするの」
青年はその柔らかな頬をつついてみようと指を伸ばす。薄紅色に染まったその頬は、絹のような感触で、柔らかく弾力があった。
ひどく、不思議な気がした。自分が、こうして次の命を残すことになるとは、思いもしなかった。それはきっと、彼の妻も、同じ気持ちだろう。
「こいつのために、馬を用意してあるんだ。早く乗れるようになるといいな」
「気が早いわね。まだ生まれたばかりなのよ」
「すぐに乗れるようになるさ。俺だって物心ついたときから馬に乗っていたんだから」
不意に、頬をつついていた指を、赤ん坊がぎゅっと握り締めた。その思いもかけない力に、生命の強さを知らされる。
(生命の、強さ)
不思議な運命に翻弄されて、そしてたどりついた先で、生まれた新しい命。
「ねえ、この子の名前、もう決めた?」
妻の言葉に、青年は、彼女の腕に抱かれているちいさな命を見つめた。
妻の妊娠が分かったときから、もし生まれたのが男の子だったなら付けようと決めていた名前があった。
「ああ。……ジュリアス……に、しようかとおもっているんだ。どう思う?」
青年は、うかがうように妻の顔を見た。彼女は微笑むことで、肯定の意を返す。
「いい名前ね、とても」
おそらくは彼女も、付けるのがその名前であろうことは分かっていただろう。そこに込められた意味も。
その笑顔に、青年は少しだけ照れたように笑う。
彼女は腕の中にいる赤ん坊を少しだけ強く抱きしめて、優しく語りかけた。
「ジュリアス……しあわせになりなさい、誰よりも」
青年も、同じように赤ん坊に語りかける。
「しあわせになれ、ジュリアス。それが、俺達のたったひとつの願いだ」
ジュリアスと名付けられた子供は、言われた言葉が分かるかのように、ぱたぱたと腕を振る。青年とその妻は、そんなしぐさを見て微笑み合う。
ささやかで、そして限りない幸福。
「ジュリアス……しあわせになりなさい」
ふたりはその言葉を何度も繰り返す。まるで祈るように。ただそれだけを願いながら。
…………それは、過去か未来の、遠い記憶…………。
To be continued.
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