未来の想い出 0-2


「ちょっとジュリアスを連れて遠乗りしてくるよ」
「あら、また?」
 妻の返事を待つ前に、青年はもうジュリアスを連れて馬にまたがっていた。
「まだひとりで馬に乗ることは出来なくても、馬に慣れておくのは大事なことだからな」
「そんなこと言って。ただ自分がジュリアスと遠乗りしたいだけのくせに」
 何もかも見透かした目で妻に見つめられ、青年は照れたように笑う。昔からそうだ。彼女のまっすぐな瞳にだけはかなわない。
「気を付けてね」
「ああ、行ってくる」
 自分の前にもうすぐ3歳になる息子を乗せて、青年は馬を走らせた。
 風が髪をなびかせる。ジュリアスも慣れたもので、うまくバランスを取りながら馬に乗っていた。
 やがて一面の草原へ出る。一面の緑。右も左も前も後も一面の緑。
 そしてその緑に覆いかぶさるような一面の青。果てしない青空。
 何処までも何処までも、澄みきった世界。
「……………………」
 こんなときジュリアスは、言葉を失う。まだ小さくて、この美しさを正確に表現するだけの語彙力がないのだ。いや、人がどれほど生きたとしても、この自然の美しさを余すことなく表現など出来るだろうか。
「きれいだろう」
 父親の言葉に、ジュリアスはうなずく。
 きれい、なんて、本当はそんな一言では語り尽くせない筈なのに、父親の言葉にはこの草原を深く愛し誇りに思う気持ちが込められていて、その一言で十分のような気にさせられた。
「早くお前も、一人で馬に乗れるようになるといいな。この草の海の中を自由に駈けていくあの気分を、お前に教えてやりたいよ」
 青年の大きな手が、ジュリアスの母親譲りの金の髪を撫でる。
「ジュリアス。この風景をちゃんと覚えておくんだぞ」
 忘れるものかと思いながらも、ジュリアスは大きくうなずいた。
 一面の緑。一面の青。
 それを瞳に刻み付けるように、ジュリアスはずっとその風景を見つめていた。


 一面の緑。一面の青。
 いちめんのみどり、いちめんのあお…………。


 To be continued.

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