未来の想い出 0-4
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しあわせは、特別なものではなくて、まるで空気のように水のようにそこにあったから、それがなくなったり途切れたりするなんて考えたこともなかった。
「ジュリアス」
優しく呼ばれる声に振り向けば笑顔の母親がいて、駆け寄ると温かな胸に抱きしめられた。
「ジュリアス」
力強く呼ばれる声に見上げれば笑顔の父親がいて、大きな手が金の髪をわしわしと撫でた。
それは当たり前で、いつもそこにあって、それがいつまでも続いていくのだと思っていた。
それは、突然の別れだった。
ある日突然、ジュリアスは両親に、離れ離れにならなければならないと言われた。たったひとりでよく知らない遠い処に行かなければならないと言われた。それも、少しの間ではなく、ずっと長い長い間。
ジュリアスは訳が分からなかった。あまりに突然のことで、何が起きたのか、理解できなかった。
分かるのは、大好きな両親と引き離されてしまうということだけだった。
嫌だと泣いた。いつもの聞き分けのいい子は何処へ行ったのか、大声で泣いてわめいて暴れて、行きたくないと声が枯れるまで叫んだ。
何故離れなければならないのか。何故遠い処になど行かなければならないのか。
ここにいたいのに。一緒にいたいのに。
ずっとずっとずっと、大好きな父親と母親の元にいたいのに!
「ジュリアス……ジュリアス……」
母親も泣きながらジュリアスを抱きしめ、けれど行かなくていいとは言ってくれなかった。
「ジュリアス……お前は行かなくてはならないんだ。宇宙のためでなく、お前自身のためにも」
いつも厳しかったけれど優しかった父親は、苦しそうな表情でそう言った。
どうして、どうして自分がそんな処へ行かなければならないのか。どうして一緒にいられないのか。どうして!!
「それが、運命だから」
ウンメイって何? そんなもの知らない。そんなものいらない。
ただ、一緒にいたい、ここにいたい。願いはそれだけなのに。
泣き叫んで暴れた。父親や母親にしがみついて、一緒にいてと懇願した。
それでも。
二人は、ここにいていいとは、言ってくれなかった。
「また会えるよ。お前は気づかないかもしれないけど、いつかお前は俺達に出会う」
父親は膝を折って、ジュリアスと同じ目の高さになって、言い聞かせるようにそう言った。
「だから、お前は行かなくてはいけないんだ。…………未来に」
未来なんて、そんなもの知らなかった、いらなかった。
ただ、大好きな両親と引き離されてしまうことが哀しかった。
だからずっとずっと泣き続けた。
……しあわせは、特別なものではなくて、まるで空気のように水のようにそこにあったから、それがなくなったり途切れたりするなんて、………………。
To be continued.
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