未来の想い出 0-5


 過去がしあわせであればあるだけ、未来は暗い闇のように思えた。
 ジュリアスは、聖地に向かう船の中で、ひとり膝を抱えて泣き続けていた。
 両親と引き離されて、ひとりきりで、寂しくて、哀しくて。
 確かにこれから先にもしあわせが待っているかもしれない。でも今まで当たり前のように手にしていたしあわせをすべて取り上げられて、ひとりきりにされて。今は、これから先にあるかもしれないしあわせなど信じられなかった。
 ひとりきりでずっと泣いた。
 今までならこんなとき、母親か父親がそっと見守り、あるいは慰めてくれた。
 でも、ここに母親も父親もいない。ひとりきりだ。
 そしてもう、永久に会うことは叶わないのだ。

「また会えるよ。お前は気づかないかもしれないけど、いつかお前は俺達に出会う」

 父親はそう言った。でも、それが嘘であることを、ジュリアスは知っていた。これから行く処は、他と時間の流れが違うから、もう会えないのだ。「まだこんなにちいさいのに、もう両親に二度と会えないなんて可哀相に」と、迎えに来た使者達がこっそり話し合っているのも、知っていた。
 それに、もし父親の言葉が嘘じゃなかったとしても、このままじゃきっと、また会える『いつか』が来る前に寂しくて哀しくて死んでしまうだろう。その日までひとりに耐えられるほど、ジュリアスは強くなかった。
(おとうさん……おかあさん……)

 だから。

 小さな子供は無意識のうちにしあわせな記憶を閉ざした。
 両親と過ごしたしあわせな記憶すべてを。
 そうしなければ、寂しさと哀しさに埋もれて死んでしまいそうだったから。大好きな両親にもう一度会えるという『いつか』が来るまで、生きていけないと思ったから。
 小さな子供は、自分の過去の記憶を、心の奥底に閉ざしてしまった。


 そして、すべてを忘れた子供は、聖地で新しい人生を歩き始める。
 誇りを司る、光の守護聖首座、ジュリアスとして。


































 つらかったこともしあわせだったことも、いつかはみんな忘れてしまうの?
 それは時間のせい? 弱い心のせい? それとも?



























 …………おとうさん……おかあさん…………









 To be continued.

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