風化風葬 (0)





強い風が吹いていた。
満月の光が照らす、高層ビルの屋上で。

彼は、俺に向かって、言った。


「やっと逢えた」


凛と響く声。この、月の光のように。


「おまえを、ずっと探してた」


真っ直ぐに見つめる、漆黒の瞳。
すべてを映す美しい黒曜石。


「私を……捕まえるために、ですか?」


彼は敵対する者のはずだった。
だからこそ、自分の逃走経路にこうして立ちはだかっているのだと思った。


「違う」


わずかに伏せられた瞳。長いまつげが、蒼い影を落とした。
その美しさに、息を呑み、目を奪われた。










「俺は、いつかおまえに殺されるために、生きてきた」










強く吹いた風が彼の髪を揺らして、その瞳を隠した。
だからそのとき、彼がどんな顔をしていたのか、知らない。




















「俺を殺せ、キッド。そうすれば、おまえの願いは叶うから」




















願うのは、あなたがしあわせであること。

どうか、笑っていて。

それが俺のためでなくても、俺の傍でなくてもかまわないから。

どうか、しあわせでいて。





















大丈夫。


あなたは、私を、もう忘れるから。













 To be continued.

 続きを読む