Kyrie eleison <キリエ・エレイソン> -1-


 アルフォンスがそれを見たのは、全くの偶然だった。
「あっ……んん……たい、さ……」
 鼻にかかるような甘ったるい声を出して、姉は男の上で腰を振っていた。
 上着はきちんと着込んだまま、下肢には何も身につけていなかった。白くまろい尻がなまめかしく揺れる。そしてそのたびに、赤黒い男の性器がその中に飲み込まれては引き出され、また飲み込まれる様がはっきりと見えた。
(ね……姉さん?)
 その光景を、アルフォンスは扉の隙間から呆然と見ていた。
 まるで現実とは思えない。姉は、一体何をしているのか。いや、何をしているかは分かる。だが信じられなかった。
 相手の男は、アルフォンスもよく知る人物だった。軍の大佐で、自分たち姉弟の後見人をしてくれている男だ。
 その男の執務室で、男はいつものように大きな革張りの執務椅子に座っており、それと向かい合わせに足をまたぐように姉が乗っている。男は軍服の襟元ひとつくずしていない。ズボンもきちんと穿いているところを見ると、必要な部分のみを取り出してコトに及んでいるのだろう。
 男の手は添えるように姉の腰元に置かれているだけで、男は一切動いていない。その分、姉が1人で腰を揺らしていた。自分の感じるポイントに胎内の性器を擦りつけようと必死なのか、腰は上下するだけでなく、なまめかしく左右にひねられたりもする。いやらしく浅ましい、女の動きだった。
 これ以上、そんな姉の姿など見たくないと思うのに、アルフォンスの足は床に根でも生やしたように動かなかった。
「あんっ……もう、ダメっ……!」
 姉がひときわ高い声を出すのとほぼ同時に、腰に添えられているだけだった男の手が強い力で細い腰を掴んだ。そして、まるで荷物でも動かすように、ちいさな姉の身体を激しく上下に揺すりだした。
「たいさっ……イク……っ、も、……」
 何度か姉の身体を上下させたあと、腰を掴んだ手が、下に押さえつけるように姉の身体に深く性器を飲み込ませて、そしてそのままとまった。剥き出しの白い太股が痙攣して、達したことを知らせていた。男の方も達しているのだろう。今まで動かなかった身体がゆるく揺れている。まるで精液を全部中に出し切ろうとするように。
 軽く背を反らせていた姉は、やがて大きく息をつきながら背中を丸め、男の青い軍服の肩に頭を預けた。その背を、ちいさな子供をあやすかのように、男の手が優しく撫でる。
 男は姉の耳元にくちびるを寄せて、何か囁いた。内容までは聞き取れなかったが、その瞬間に姉の頬が赤く染まったことから何か卑猥な言葉だったのだろうと想像がついた。
 そのまま内緒話をするように二言三言言葉が交わされて、姉は男の手によって膝の上から下ろされた。男から離れる瞬間に、ずるりと、姉の中から性器が抜け出ていくのが見えた。一度射精してすでに勃起はしていないその性器は、白い粘液にまみれていた。
 男は膝から下ろした姉を、そのまま足元の床に座らせるように置いた。剥き出しの尻を、べたりと床につけている。磨かれた床は冷たくないのだろうかと、アルフォンスはぼんやりと思った。
 何かを促すように、男の手が姉の頬に触れ、輪郭を辿るようにくちびるをなぞった。それに引き寄せられるように姉は膝立ちになると、男の股間に顔を寄せた。まだズボンから出されたままの、精液にまみれたそれを、少しためらうように口に含んだ。そして精液をぬぐうように、舌を這わせる。
 ぼとりと、精液が床に落ちて白い円を作った。膝立ちになった姉の足の間から、滴って落ちたのだ。それだけでなく、白い太股を伝う筋も見える。アルフォンスの目はそこに釘付けになる。
(なかに)
 男は避妊することもなく、姉の膣内に精液を注いだのだ。
 今、姉の胎内はどうなっているのだろう。人体錬成の研究のために見た、人体解剖図が頭に浮かんだ。その子宮の中には、男の精液がたっぷりと溜まっているのだろうか。
 姉の足の間に落ちる精液の雫が、いつのまにかふたつみっつと増えていた。もぞもぞと腰が揺れていた。さっき、男の性器を飲み込んでいやらしく揺れていたように。それにつられて、股間から注ぎ込まれた精液が落とされているのだ。その様は、男の目にもはっきり映っているのだろう。楽しそうに、くちびるの端が吊りあがっている。
「たいさ、たい、さぁ……」
 性器を舐めながらのせいだろう、くぐもった声で男を呼ぶ声がする。姉のこんな声など、聞いたことがない。
 アルフォンスから表情は見えないが、いやらしく誘っているのだろうか。目を潤ませて、頬を赤くして、そのくちびるを精液と唾液でべとべとにして。
 だが男はそれでも動かなかった。自分の性器を必死に舐める少女を楽しげに見下ろしているだけだ。
 そんな男の態度にじれたのか、姉は性器から口を外した。彼女の性格なら、もういいと切れて怒鳴るか暴れるかするのかと思っていたら、まったくアルフォンスの予想を裏切った。姉は床に膝をついたまま身体をずらすと、男の方に尻を向け上体を倒した。尻を突き出す格好のまま、肩を床につけて体を支えると、後ろに手を伸ばした。おそらく、男に向かい、自分で性器を広げてみせているのだろう。
「大佐、お願い、おねがい、だからっ……、いれて、ここに、大佐の……」
 そのお願いに男は満足そうに微笑むと、悠然と椅子から立ち上がって自分も床に膝をついた。姉の腰を引き寄せて一気に性器を突き入れ、間髪いれずに腰を動かし始めた。
「んっ! ああっ! たいさっ、たいさっ!!」
 突き入れられるたびに、嬉しそうな高い声があがる。床に額を押し付けて、自らも腰を振っている。金色の髪が、床に散らばっていた。
(──────姉さん!)
 こんな、こんなのは、犬と同じではないか。
 ベッドの上で、裸になって抱き合いながらのセックスならまだ分かる。
 でも今、姉は床に這いつくばって尻だけ突き出して、男に後ろから犯されて嬉しそうに鳴いている。自分から腰を振っている。
 なんて、なんて浅ましい姿なのだろう。
 今度こそ、もう耐え切れなくなって、アルフォンスは気付かれぬようそっと扉から離れた。


 To be continued.

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