Kyrie eleison <キリエ・エレイソン> -3-


 賢者の石を探して国中を旅している姉弟が、この東方司令部に帰ってきたのは2ヶ月ぶりのことだった。
「久しぶりだな、鋼の」
「まあな。これ、報告書」
 執務室で、男は少女からこの2ヶ月の間の報告書とレポートを受け取る。
 国家錬金術師は軍属の身であり、その所在と研究過程を逐一軍に報告しなくてはならない。目の届かないところで反逆でも起こされたら困るからだ。その意味では、”鋼”の銘を持つ彼女が、自由にあちこちを旅することは不可能だ。だがそれを、軍の大佐という地位を使って、この男が融通していた。
 男は報告書を確認したあと、机の引出しから本と何枚かの書類を取り出す。
「ほら、君の欲しがっていた文献だ。それと、こっちは石に関する情報だ」
「さんきゅ」
 文献を受け取ろうと伸ばされた腕を男は掴んで引き寄せ、少女を椅子に座る自分のすぐ正面に立たせる。それだけで、これから何をされるのか悟って、少女の眉がかすかに寄せられる。
 いつも一緒にいる鎧の弟は今はいない。部下たちには事前にそれぞれ仕事を与え、よほどの急用でなければ執務室に近づかないよう言ってある。ここで何が行われているかくらい分かっているのだろうが、よくできた部下たちは、多少眉をひそめはするが、口出しはしない。
「脱ぎなさい。……ああ、下だけでいい」
 その言葉に、少女はまるでためらわずにズボンのベルトに手をかける。だが、本人はうまく隠しているつもりだろうが、その手がわずかに震えている。
 もうすでに何度も繰り返されている行為だ。たとえば娼婦のように完全に仕事と割り切ってしまえばいいのに、そんなことも出来ない。まだ16にもならない少女に、そんなことは無理なのだろう。
 ブーツを脱ぎ、ズボンと下着が足元に落とされ、普段から長ズボンを穿いているせいでまったく日焼けしていない白い足が晒される。服を着ているときはまるで少年のようだが、こうしてみると、やわらかな足のラインははっきりと少女のものだった。そして、今は隠されている上半身も、わずかに胸が膨らみ、腰が滑らかにくびれていることを知っている。
 視姦するように、つま先からふくらはぎ、ふともも、そして薄い恥毛にまで視線を走らせる。本当は恥ずかしいだろうに、あるいは恐怖や嫌悪を感じているだろうに、それでもそれを悟らせまいと、こんなことはなんでもないとでも言いたげな顔をしている。けれど、そのくせ羞恥や恐怖を隠し切れずに、そろえられた足先が、かすかに震えている。この少女のそういうところが、男を煽るのだ。
 脇に手を入れて軽い身体を持ち上げ、書類をどかした執務机に座らせる。
「今日は私は動かないから、すべて自分でやってみなさい」
「な……」
 言われたことの意味を悟ったのだろう。その頬が紅く染まり、何かをこらえるようにくちびるが噛み締められる。
 それでもおずおずと男の目の前に足が開かれ、秘所に細い指を持っていく。慣れない手つきで肉をなぞり、襞に指先を滑らせる。
 一番初めに関係を持ったのは、彼女が国家錬金術師になってすぐだった。
 旅をするための融通、必要な文献の手配、石に関する情報の収集、それらを餌に、幼い身体を蹂躙した。まだ今よりもっと小さくて、男の性器を全部飲み込むことも出来ず、機械鎧の手術よりは痛くないと強がりを言う子供をむさぼった。それからずっと、この関係は続いている。自宅に連れ込んで抱くこともあったし、こうして仕事場でコトに及ぶこともあった。
 彼女には至上命題がある。最愛の弟の身体を取り戻すということだ。だから、そのためにこうして好きでもない男に抱かれることも甘受している。
 教えられたとおりに、男を喜ばせるために腰を振り、性器を舐め、媚びてみせる。
(かわいそうに)
 目の前で、必死に自分の性器を嬲っている少女を見つめながら思う。
 軍は汚い人間も多いが、たとえば軍法会議所にいる友人や豪腕の錬金術師のように、芯から心根のきれいで優しい者もいる。そういう者達に後見されていたなら、この少女はこんなことを強いられることもなかっただろう。
 だが男は、この少女を手放す気は毛頭なかった。
 彼女を自分の手元から奪おうとする人間がいたなら、迷わず焼き殺してやるだろう。
「ふっ……ん……」
 少女は必死に指を動かすが、思うように濡れてこない。自慰などほとんどしたこともなく、ましてこんなふうに見つめられながらではうまく出来ないのだろう。なかなか濡れてこないことに焦って、さらに指の動きがぎこちなくなっているのが分かる。
 男は何もしないという自分の宣言も忘れて、開かれた足の間に顔をうずめて、秘所を舐め上げた。
「あ……」
 甘い声があがり、とろりと蜜があふれてくる。
 秘裂をなぞり、花芽を舌で押しつぶすように刺激してやれば、さっきまで乾いていたのが嘘のように濡れて、机の上にまで垂れてくる。
 ここまで濡れれば十分だろうと判断し、顔を上げて椅子に深く座りなおす。少女の媚態に、いつのまにかきつく張り詰めていた自分の性器をズボンから出した。それ以上は服を乱さない。
 少女は机から降り、おずおずと膝の上に乗ってくると、慣れない手つきで男の性器を掴んで自分の中へと入れた。あたたかく柔らかな、けれどきつく締め上げる感触が快感を伝える。
「あっ……んん……たい、さ……」
 胎内の性器を絶頂に追い上げるために、みだらに腰を振ってみせる。上半身は上着も着込んだまま、下半身だけ剥き出しにして、男に跨っている。普段の姿からは想像も出来ないようないやらしい姿。やり方も、媚び方も、全部男が教え込んだ。
 本当なら、彼女はこんなことをする性格ではない。けれど、賢者の石を探すため──ひいては弟のために、少女は男に逆らえない。こんな娼婦のような真似をしなければならない。
(かわい、そうに)
 あと何年、こんな関係が続くのだろう。この関係を続けられるのだろう。
 少女の中の至上は絶対に弟で、どんなことをしても、男がそれを超えることは出来ない。本当にかわいそうなのは、どちらだろう。
「あんっ……もう、ダメっ……!」
 限界が近くなり、足に力が入らなくなってきたのか、少女がひときわ高い声で鳴く。
 男は少女の腰を掴むと激しく揺すり、その胎内にすべての精液を放った。


 To be continued.

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