In paradisum <イン・パラディズム> -3-


 男の指と舌は、それからずっと秘裂に這わされている。入り口をなぞったり、中へ浅くもぐらせたりするものの、激しい動きをすることはない。快感は与えられるのに、決定的なものは与えられず、少女は達することができない。そのくすぶるような熱を、ずっと与えられているのだ。さらに自分で触れないようにと少女の両手は背中のところで縛られている。
「やだ……もうやだ……」
 少女は半分べそをかきながら、男に哀願する。けれど男は意地の悪い笑みを浮かべて、少女の膣を嬲る。
「ひどくして欲しいと言ったのは君だろう?」
 男自身は、既に少女の口淫で2回抜いている。だが少女はまだ一度も絶頂を与えられていないのだ。
「私だって早くここにいれたいのだがね……」
 言いながら男は、すでに勃起している性器を少女の秘裂にこすりつける。力強く脈打ちながら硬くなっている肉棒が、蜜をあふれさせながら震えている入り口を掠めてまた離れてしまう。
「う……いれて……」
「ダメだよ、そう簡単には入れてあげられないな」
 男の手がきつく乳首を摘み上げると、反射のように少女の背が反り返った。痛みにではない、快感でだ。だが絶頂に達するにはわずかに足りず、また体の中にくすぶる熱を蓄えさせるだけだった。
 強過ぎる快感は、もはや苦しさになっている。痛みにならきっと耐えられるが、こんな苦しさには耐えられない。苦しくて苦しくて、他のことが何も考えられなくなる。
「おねがい……っ」
 縛られているせいで自由にならない体をそれでも必死に動かして、濡れた性器を男の腰に擦り付ける。獣のように浅ましいと思うけれど、とめられなかった。
 少女の必死に媚態に、男も限界だったのか、男は少女の腰を抱えると一気に根本まで埋め込んだ。
「ああっ!」
 それだけで、少女は達してしまう。けれど息をつく間も与えられずにそのまま激しく突き上げられる。
「あっ、や、待って」
「待てない」
 少女のことなどお構いなしに、男は腰を振る。
 痛みを感じるような無茶苦茶な動きでも、熱をくすぶらせていた身体はそれを快感へと変えてしまう。
 激しく動きながら、後ろで縛っていた腕をほどかれる。自由になった両腕で男の背中にすがった。
 このいびつな身体を、もっと責めたてて欲しかった。もっと苦しめて、痛めつけて、それだけでいっぱいにして欲しかった。失って、足りなくなってしまった何かを補うように。それができるのは、この男だけだ。
「ロイ……ロイ……」
 うわごとのように名を呼ぶと、動きを緩めて、男が覗きこむように顔を近付けてきた。心配するように、うかがうように、優しくくちづけられる。
 それを少女は頭を振って振り払った。今欲しいのは、優しさなどではないのだ。
 その思いは的確に男に伝わったのだろう。また痛いくらいの激しさで腰を打ち付けてくる。 それでいい。今は、それでいいのだ。頭を白く染め返る、押し寄せる波に身を任せて、少女は目を閉じた。



 しばらく睡眠をとっていなかった身体を酷使して、もう限界に達していたのだろう。少女は糸が切れたように深い眠りに落ちている。男がその頬を撫でても髪をかきあげても、目を覚ます気配はない。
 胎児のように小さく丸まって眠る彼女を見つめながら、男は思う。
(急がなければ)
 これですべての問題が片付いたとは思えない。今説得できたとしても、すぐに弟のことを吹っ切れるわけではないだろう。弟をよみがえらせる研究をとめることはできても、頭のいい彼女はやがて弟の『死因』に気付いてしまうだろう。
 早く──早く。そうなる前に。少女が、弟の本当の死の原因に気付く前に。
 真実など誰も救いはしない。だったら優しい嘘で塗り固められた世界のほうがいい。
 それがただのエゴイズムであったとしても。
 男はそっと眠る少女のまぶたにくちづけた。


 To be continued.

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